EndPaper

本に触れる。
その小さなきっかけを届ける
ウェブマガジン。

2019-03-25

学校にブックバスがやってきた!380人の生徒へ本を届けるまで

 

 

 

冷たい風が吹き抜ける、冬の朝。

ブックバスはこの日、小学校にいました。

たくさんの本をのせ、迎えるのは380人の生徒たち。

 

1月29日から30日までの3日間、

上田市内にある西小学校にて開催された本の寄贈プロジェクト「ブックギフト」

10年近いブックギフトの活動のなかで、小学校での開催は実は初めてです。

 

・どうして古本屋が本を無償で届けるのか。

・小学校への本の寄贈が叶うまで

・届けた本はどう使われているのか。

 

当日の様子とあわせて、

バリューブックスが小学校へ本を届けるまでのストーリーをまとめました。

 

 

 

 

 

 

先生の声から実現した、初の小学校へのブックギフト

 

バリューブックスに送られてくる本のうち約半分は、

インターネット上で価値がつかないことを理由に、古紙リサイクルに回しています。

文芸書に児童書、レシピ本……、決して状態が悪いものばかりではありません。

 

“なるべく本を本として活かしたい”
“これらの本を求める人はまだたくさんいるはず”

 

そんな想いから2009年より「ブックギフト」は始まりました。

 

▼ブックギフトの詳しいストーリーはこちらから
『誰かのために本を届けること。と、一番大切な人に本を届けること。』

▼古紙リサイクルに回された「本のゆくえ」はこちらから
『本が命を終えるとき』

 

 

これまで老人ホームや保育園などを中心に行ってきたこの活動ですが、ついに初めて小学校を訪問します。

そのきっかけをくれたのが、図書館司書の山本あゆみさんです。

 

 

図書館司書として8年目、西小学校での勤務は3年目を迎える山本さんは、大の本好き。バリューブックスが運営するブックカフェ「NABO」の常連さんでもあります。

去年の夏、NABOの二軒隣にある本のアウトレット「バリューブックス・ラボ」がオープンして間もない頃、お客さんとして遊びにきていた山本さんは、たまたま居合わせた社長からブックギフトという活動があることを知ります。すぐさま学校へ持ち帰り、「うちの小学校でもブックギフトをやりたい」と、他の先生たちに働きかけてくれました。

 

しかし、ひとつ不安がありました。

 

「小学校の図書館にある書籍は、市から出る予算の中から購入しています。バリューブックスさんからの本の寄付があると、その分、図書費へ充てる予算が削減されるのでは、という懸念がありました。さらに、書籍の仕入れに関しては、自治体で提携している新刊書店さんとのつながりもあり、中古本の取り扱いが難しいという事情も。だから小学校でのブックギフトを実現するには、“仕組み作り”から、市の教育委員会と一緒に考えていく必要がありました」と、山本さん。

 

彼女が学校へ働きかけている時、バリューブックスにも転機が訪れます。朝日新聞にバリューブックスの活動が取り上げられたことで、興味を持った土屋上田市長がバリューブックスの倉庫を訪ねてくれたのです。

「ブックギフト」のような地域に特化したプロジェクトを進めていくのにはいい機会ではないか、とわたしたちは考えました。それ以降も市側と継続的なコンタクトをとり、話し合いを重ねます。どうしたら図書費の予算を圧迫することなく、ブックギフトを実現できるか。

 

ブックギフト担当者の中村聖徳さんは当時の状況を話してくれました。

 

「実施していくにあたり、教育委員会学校教育課の皆さんが気にされていたのが“どんな本が寄贈されるのか”ということでした。本のジャンル、内容、状態、冊数など。そこで、実際に寄贈される本を見て頂き、山本先生からも学校の図書事情を伝えてもらいました。名作や人気の高い本ほど長く読み継がれボロボロになっていること。状態の悪い本は学級文庫にまわされていること。

その結果、まずは学級文庫への寄贈、という形でブックギフトの実施が決まりました」

 

 

 

 

 

 

 

日替わりの本棚から、自分で選べる楽しさ

 

そして迎えた、初めての小学校へのブックギフト。本との触れ合いを楽しんでもらうため今回は単なる本のプレゼントではなく、ひとり1冊、好きな本を選んでもらうことにしました。全校生徒380人にのため、用意した本の数は1000冊以上。3日間、毎日ブックバスが来校し、生徒たちを迎えます。

 

「保育園とちがって、小学校は学年ごとに読む本がまったく異なる。だから本のセレクトが難しいんですよね」と聖徳さん。

図書館司書の山本さんから生徒に人気の本を教わりながら、学年ごとの好みにあうようセレクトをします。絵本やゾロリなどの児童書から、図鑑、映画原作本、ハリーポッターなど骨太なファンタジー小説まで、幅広いジャンルが本棚を埋めます。

 

 

 

チャイムの音が鳴ったかと思えば、いよいよ子供たちが列をなしてやってきました。はじめて見るブックバスに目を輝かせながら、順々に乗り込んでいきます。読みたかった本をパッっと見つけ手にとっていく子がいれば、なんども本棚の前を往復して好きな本を探す子も。

 

 

 

「うらやましいです。小学生時代にブックバスが来てくれたら、きっとうれしくて夢中で本を選んだんだろうなあ」

そう話すのはバリューブックスで販売業務を行う高橋里奈さん。この小学校の卒業生です。学生時代は大体いつも図書館にいたというほど本が好き。この日はふだんの業務から離れ、ブックギフトのお手伝いに来ていました。母校へ来るのは卒業以来、10年ぶり。バスの入り口にあるカウンターに座り、小さな手から本を受け取ると、表紙の汚れを乾いた布で拭きとり、また手渡します。

 

 

子供たちが選んだ本は、学級文庫として各教室へ。自分が選んだ本を読み終えたら、今度は友達が選んだ本を開きます。今回のブックギフトに合わせ、PTAからはキャスター付きの本棚が贈られました。みんなが本を読み終えた時、ほかのクラスの本棚と交換できるように。

 

 

 

非日常な体験は本を身近に感じるきっかけに

 

寄贈される本は通常は古紙リサイクルとして廃棄されている本ですが、その状態の良さには驚きましたと山本さんは話します。

 

「図書館では限られた予算のなかで、本を購入するので、何度も読まれ擦り切れた本でも、なかなか買い直すことができません。今回譲っていただいた本も、処分されるものだと聞いて正直最初はあまり期待していませんでしたが、実物を見てびっくり。まだまだ読める綺麗な本ばかり。しかも本を送ってもらうだけじゃなく、自分で選んで読めるというのが贅沢ですよね。ふだん図書館では出会えないような本との出会いを楽しんでほしいです」

 

 

「バスに絵をかいていいよ」

 

途中、スタッフから子供たちへこんな声がかかります。バスから降りた子どもたちは先生からチョークを手渡されると、再びバスに駆け寄り、思い思いの絵や言葉をかきはじめました。大人たちから何かを言われたわけでもないのに、バスはあっという間に「ありがとう」の言葉でいっぱいに。

 

 

今回の西小学校を皮切りに、今後もブックギフトでは上田市内の全小学校へ本をお届けする予定です。

誰かが手放した本が、再び輝ける場所を探して。

 

 

 

撮影:篠原幸宏

 

posted by 北村 有沙

石川県生まれ。上京後、出版社にてライフスタイル誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、上田市への移住を決める。趣味は温泉とビール。

BACK NUMBERCLICK FOR ALL