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2020-02-28

与えられた仕事をこなすだけさ。魂を乗せて。

 

本書は、ノルウェーの職人オーレ・トシュテンセンが手がけた住まいの仕事を、丹念に振り返る1冊です。

と聞いて、「ああ、あの!」とピンとくる人はいないでしょう。だって彼、著名な建築家などではなく、街の大工さんなのですから。

職人といえど、黙々と目の前の建材に向き合いトンカチを振るえばいいわけではありません。彼はひとり親方。屋根裏の改装を望む依頼主とコミュニケーションを重ね、現場を観察し、見積もりを作成する。それで一安心、となればいいのだけれど、入札形式のこの仕事。果たして依頼主の夫婦が自分に仕事を任せるのか、不安を抱えながら日々をやり過ごしていきます。

それでも、彼にできるのはたったひとつ。いい仕事をする。それだけです。

誠実に自分の領分を全うし、汗を流し、ただ依頼主の要望を飲み込むのではなく、よりよいと信じることをきちんと主張していく。

こうした仕事振りは彼の誇りでもあるし、それによって生み出されたものが、また新しい仕事の呼び水となって自分に帰ってくる。その確信を持って家づくりに勤しむ姿は、淡々とプロフェッショナルのありようを僕たちに語りかけます。

職人とは、プロとは、テレビ画面や誌面に登場するそれだけでなく、僕たちの生活圏内に確かに存在している。時にほこりで体を汚し、時に街場のバーで酒をあおりながら。そんな当たり前を、再確認させてくれるエッセイでした。

ああ、僕も脇を締めて、いい仕事をしていかなくちゃ。
ほかの誰でもなく、自分にきちんと胸を張れるように。

 

『あるノルウェーの大工の日記』

オーレ・トシュテンセン(著) 牧尾 晴喜 (監訳)、 リセ・スコウ (翻訳)、 中村 冬美 (翻訳)

 

エクスナレッジ (2017/9/29)

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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