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2019-05-12

自分に問いを立て、答えるように店をつくる <わざわざ+問tou 平田はる香 インタビュー前編>

 

バリューブックスの拠点である上田市のおとなり、東御市に「問tou」がオープンしました。

同じ東御市にてパンと日用品の店を営む「わざわざ」の、新店舗。

「わざわざ」とは違って、ギャラリーと、喫茶と、本屋がミックスされたお店です。

この、本の仕入れと陳列の部分で、バリューブックスも立ち上げのお手伝いをしました。

 

どんな本屋になるか、いや、そもそも「問tou」はどんなお店になるのか。

オープン日の数日前、慌ただしく準備されている中でお時間をもらって、代表の平田はる香さんにお話を伺いました。

 

短い取材時間ではあったけれど、考え抜いた末の言葉の数々をたっぷりと聞かせてくれた平田さん。

ですので、今回は前編と後編に記事を分けた2本立て。
前編では、「問tou」というお店の”そもそも”についてお聞きしていきます。

 

 

さぁ、まずは「問tou」に向けて出発です。

芸術むら公園、と呼ばれる東御市の公園内に位置する「問tou」。電車やバスといった公共交通機関は、通っていません。

取材も当然、車で山あいを抜けながらお店に向かいます。

 

 

 

上田から車を走らせること、約30分。ようやく芸術むら公園の入り口にたどり着きました。

大通りからもはずれた、本当に”ひっそり”が似合う場所に「問tou」はあります。

 

 

お店に足を踏み入れると、オープン準備の真っ最中。

 

 

今回の本棚を担当した、バリューブックスの生江さんも準備に勤しんでいます。

 

忙しい準備の合間を縫って、インタビューはスタート。まずは、新店舗の立ち上げについて、平田さんの役割に触れながらお聞きしていきます。

 

いい波を待つように、タイミングに飛び乗って

 

平田はる香。
株式会社わざわざ代表。1976年 東京生まれ静岡育ち。フリーランスのWEBデザイナーを経て、2009年2月、パンと日用品の店「わざわざ」を一人で開業。実店舗とオンラインストアを運営し、2017年に株式会社に組織変更。「全ては誰かの幸せのために」を基本理念に掲げ、18名のスタッフと共に働く多忙な日々を送っている。

 

—— 平田さんは2009年に「わざわざ」を立ち上げて、試行錯誤しながらお店のあり方を変えてきましたよね。今回は、新しいお店のオープン。日々お店を更新していくことと、店舗を新たに立ち上げること。それは、別の感覚でしたか?

平田:うーん、感覚としては同じですね。確かに種類は違うけれど、”立ち上げる”ということに関しては、一緒の気持ちがします。何かを新しく生み出す、という意味では「わざわざ」でも「問tou」でも行なっていることは同じかな。表現の仕方を変えただけ、という気がしています。

—— 表現の仕方が、違う。「わざわざ」は日常、「問tou」は非日常をテーマとされていますよね。

 

 

平田:そうなんです。表現の仕方は変わっているし、取扱商品もふたつは全く違う。けれど、価値を新たにつくり出す過程はすごく似ているんです。

こうやって場をつくり、また、場をつくったことを皆さんに知らせて来ていただく。そういった手順も変わりませんね。

—— なるほど。ただ、平田さんの仕事は変わらないとしても、こうして新しいお店に挑戦するというのは、「わざわざ」という枠組みだけでは発信しきれないものがあると感じたからですか?

平田:そうですね。私、結構受け身なんですよ。

—— 受け身?

平田:ええ。きっと私は、積極性があり、自分からガンガンと行動していくタイプに見えていますよね(笑)でも、実はそうした性格ではないし、経営者としてもとても受け身なタイプなんです。やりたい!という思いはあったけれど、自分からはなかなかやろうとしない。お店のコンセプトについてはずっと考えていたんですが、だからと言って店舗を探すなどの行動には移していませんでした。

そんなとき、ちょうど東御市から今回の物件のお話をいただいたんです。「あ、来たんだな」とピンときて、「やります!」とお答えしました。偶然のタイミングだったけど、そうやってきっかけを与えてもらったんです。

 

—— いいですね。サーファーが波を待ち、良い波が来たら飛び乗るような。でも、どうして平田さんにお話が?

平田:ここはもともと、地域の農産物を販売する場所だったんです。主婦の方々が集まって、おやきを焼いて売っていたり。ただ、老齢化が進み、規模がどんどん縮小してしまったそうです。市としても、ちょっと運営に困っていた部分があったんだと思います。

なので、ちょうど期が変わり、事業所を変更するというタイミングでお声がけいただいたんです。「わざわざさん、よかったらやりませんか?」と。

—— ああ、本当にタイミングがよかったというか、縁があったんですね。

 

自分に問いを立てて、答えていく

 

 

お店の構成、この「本と喫茶とギャラリー」という形もその時点でかたまっていたんですか?

平田:「問tou」という名前と、ギャラリーの設置だけは決めていました。やりもしないときから、コンセプトはすでに決めていて(笑)ただ、そのコンセプトに何をマッチングさせるかは未定でした。

 

ここのお話をいただいたときに、十分な広さがあるということ、あとは、一緒にコラボできる企業があるな、というのは感じていたんです。そのひとつが、「ツバメコーヒー」さん。店主の田中さんと私は、趣味嗜好は似ているけれど、表現の仕方はだいぶ違います。なので、何か一緒に挑戦できたら面白い、と思っていました。

それと、「バリューブックス」さん。お仕事をご一緒したことはなかったけれど、いつか本を絡めた事業をやってみたいという気持ちはあって。だから、これはチャンスだ、と。この規模感なら、本もたくさん置くことができますから。

 

なので、本とコーヒーは、はじめから決めていたわけではないんです。誰か一緒にできる人・会社はいないだろうか。そう考えたときに「本とコーヒーはいける!」と思って。そこで、ツバメコーヒーとバリューブックスにお声がけしたんです。

 

 

—— 今のお話を聞いていると、コンセプトは事前にしっかりと固めつつ、それを実現させる方法は自分の手が届くところから試行錯誤しながら進めているように見えます。5年後、10年後の「問tou」の形を現時点でかっちりと決め込んで、それに向かってお店をつくっているわけではないですよね。

決めることろは決めて、余白を残す部分は残しておく。そのさじ加減というか、お店のつくりかたについて、もう少し詳しくお聞きしてもいいですか?

平田:たしかに、お店のデザインなどについては、手を動かしながら考えていきましたね。ただ、言語化は突き詰めて行いました。

—— 言語化。

平田:はい。ギャラリーとは何なのか。本屋はどんな役割を持つのか。コーヒーを淹れるとはどういうことなのか。

本が好きだから、コーヒーが好きだからやろう、というタイプではないんです。もちろん、個人的にもその両方は好きではあるんですが、人に対してどう提案してどう伝えていくかを考える過程で、その言語化をしていったんです。

 

たとえば、現状では「本屋さん=Amazon」ですよね、言ってみれば。

—— ええ、まさに。

平田:そうすると、Amazonで本を買うことが本当に正しいのだろうか、という風に考えます。やっぱり便利だし、使いたくなる。その”便利”というのは、インターネットが運んできた強烈な流れですよね。便利ということが、そのまま消費の動向に繋がっている。

でも、はたして利便性だけですべてを選んでしまってよいのか。その問いかけを、自分の中にしているんです。

まだまだではあるけれど、「わざわざ」という利便性からかけ離れたお店が、ある程度の成果を出している。それを思うと、やっぱりみんな利便性だけを望んでいるわけではない、ということがわかってきて。

全国の人と会って話したり、旅に出ていろいろなところを訪れると、利便性とは距離を置いた地方のエースを見つけるんです。すっっごい事業をしているのに、インターネットの世界では見当たらない。

そういう人と出会うたびに、「やっぱ、それやんなきゃな」という気持ちが強くなっていって。

喫茶というスペースは、ネットでは買えないですよね。でも、スターバックスやドトールのように、ある種インターネット的にどこでも買える状況は整っている。では、そうした形とは異なる純喫茶に人が集まる理由は何なのだろう。

 

そんな風に、ひとつひとつ問いを立てて、言語化し、そこから出てきた自分のイメージを持っておく。こうした手順で進めています。

—— ああ、そうした平田さんの問いの作業が、そのまま店名にも表されているんですね。僕の中にも、インターネットにないものは世界に存在しない、という感覚がちらっとあります。

 

接続詞としての喫茶

 

 

—— 公共交通機関も通っていないこの場所は、便利から離れていて、ある意味放り出された空間ですよね。来る人はまず「問tou」という店を掘り起こす必要があるし、同時に、この場所からはギャラリーや本屋という形で平田さんが掘り起こしたものが届けられる。ふたつの掘り起こす作業が混ざった場所に思えます。

平田:そうですね。本当に、”インターネット的じゃない何か”が「わざわざ」のやるべきこと、軸だと感じています。

 

私、本屋さんが大好きですっごい行くんです。つまらない本屋さんもあるし、面白い本屋さんもある。その違いは何なんだろうと考えると、面白い本屋さんは新しい出会いをくれるんです。

Amazonもそうですが、自分で調べて消費するという形では、知っていることから逃れられない。でも、いい本屋さんはそうではない。知らないことが、目の前に急に飛び込んでくる。

ギャラリーも、そうでありたいんです。自分の好きな人の個展が行われるから足を運んで、そこで販売されている限定商品を買う。それもいいのだけど、たまたま訪れた人にフックをかけるというか、何か新しいものに出会わせてしまうのがいいギャラリーだと、私は思うんです。だからここも、そんなギャラリーにしたいな、と。

—— 本屋とギャラリーの”フック”の話は、いち古本屋としてもまさに、と思いました。これらを見て何を感じるのか、お客さんにも問うているわけですよね。

 

 

—— だからこそ、喫茶の存在が少し以外だったんです。問われる、というのは緊張感を伴う、少ししんどい瞬間ですよね。でも同時に、喫茶はくつろぎを提供するもの。そこに反発は起きないのかな、と。

平田:喫茶は、接続詞になっているんです。

—— 接続詞?

平田:何よりもここは「芸術むら公園」という市の公共施設で、地元の方々にも愛されている場所です。オープン前の今も、「何かできるみたいだぞ」というワクワク感を覚えながら見てくれている。

でも、そうした方々も、地元で育まれた作家の作品を見る機会はほとんどない。私も東御市周辺に好きな作家さんがいるんですが、そうした作品に囲まれて過ごす場所をつくらないといけない、と思ったんです。こんなにも素晴らしい人たちがいるんですよ、て。

 

ただ同時に、「この人はすごいんです」と声を上げて伝えるものでもないと感じていて。ただその空間に佇むことに意味があるというか、自然に見てしまう、そんな形がいい。だから、ただ単純にコーヒーを飲みにきて帰る。ただ本を買って帰る。「問う・問われる」を意識せずに帰ることもいいな、と思うんです。好きに過ごしていただきたい。

席も、ベンチになっていたり、立ち飲みがあったり、バラバラですよね。それも、好きな場所を自分で見つけて、自分の好きなように過ごしてほしい、という意味を込めているんです。喫茶は、そうした空間をつくるための接続詞というか、寄り添うようなものとして機能してくれますから。

—— 接続詞、という表現がすとんと腑に落ちました。先ほどの、本屋の話にも通じてますよね。目当ての本を本屋に買いに行って、意図せぬものと出会う。そんな風に、コーヒーを飲みに行ったら、コーヒーとはまったく関係ないものと出会ってしまう。

 


 

お話は、後編に続きます。

記憶にこすりつけるように本を読む

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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