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2019-05-10

アウトレット本屋でプロのせどりを見よ!

 

アウトレット本屋でプロのせどりを刮目せよ!

自らの目利きを活かし、古本屋の棚から掘り出し物を発掘するいわゆる”せどり”。

その目には、本棚に並ぶ本たちがいったいどのように写っているのだろう。私たちが書店を訪れ、興味の赴くままに棚を眺める視線とは違ったまなざしを彼らは持っているはず。

本屋はどんなまなざしで本棚を見ているのか。

それを知るべく、今回は3人のプロの目利きに来てもらいました!

 

舞台となるのは、長野県上田市。
山々に囲まれたのどかなこの城下町に、信じられない価格で本を販売する、幻の格安本屋があるというのです。

いわば”せどり御用達”の本屋。
そんな幻の本屋を見つけだし、彼らの目利きを存分に活かしてもらうべく、我々は調査隊を結成しました!

 

調査隊メンバー

高橋和也(SUNNY BOY BOOKS

学芸大学駅近くに居を構える、SUNNY BOY BOOKSの店主。店内はわずか5坪と小ぶりだが、様々なジャンルがバランスよく配置された選書には舌を巻く。幻の本屋にどんな本が眠っていても、彼ならうまくそれらを掘り起こしてくれるはず。

 

石井利佳(nostos books

貴重なアート本・デザイン書が隠れていても、素人目には判断が難しい。でも、今回は石井利佳がいるから大丈夫。上記のジャンルに造詣が深く、その目利きをいかんなく発揮するnostos booksの店長、石井が今回も目を光らせてくれます。

 

とみさわ昭仁(マニタ書房

いわく、”日本で一番ブックオフを回った男”。マニタ書房の店主であるとみさわ昭仁は、誰もが見逃してしまう本を救い出し、その価値をあぶり出す。” 珍本”をフィールドに活躍する彼が参加してくれたことで、この探検隊には一部の隙もなくなった。あとは、彼の眼鏡にかなう本があることを願うだけです。

 

さぁ、前置きが長くなってしまったけれど、早速幻の格安本屋探しの旅に向かうとしましょう!

 

 

我々は東京から新幹線に乗り、90分で長野県上田市へと到着。そう、思ったより近いのです、上田。

ここからは、徒歩で本屋を目指していきます。

 

 

 

先の見えない探検にも関わらず、調査隊には明るい笑顔が浮かぶ。
頼りになるプロたち。

 

 

とみさわ隊員、それは古書ではなく古着です!

 

 

商店街に突入するも、例の本屋はまだ見当たらない。

 

 

腹が減っては戦はできない。そう、これはあくまでも栄養補給。断じておやつではありません。

上田のローカルフード「じまんやき」で空腹を満たしながら、一行は先へと進みます。

 

 

不安を覚えながら歩みを進めること20分、ついにその瞬間が訪れた!

 

 

「あ、あれは!!!」

 

 

格安のアウトレット本専門店「Valuebooks Lab」

ついに姿を現したのは、バリューブックスが手がけるリアルの古本屋「Valuebooks Lab」。その価格は『単行本1冊:50円、文庫本・漫画は3冊で100円』という衝撃の値段! かつてのベストセラーや年季の入った古書など、インターネット上での販売が難しい本を格安で提供しています。


 

ついに我々の前に正体を現した幻の本屋。それは、バリューブックスが運営する「Valuebooks Lab」でした。

 

 

恐る恐る、店内へと足を踏み入れていく。
(1名は、すでに玄関先に並ぶ本に夢中)

 

 

店内に所狭しと並ぶ本たち。さぁ、ここからが彼らの本領発揮。どんな本が眠っているのか、真剣なまなざしで棚を調べ上げていきます。

 

 

 

気がつけば、1時間は経っていたでしょうか。

ギラギラとしたプロの目つきも次第にやわらぎ、3人とも満足気な顔で今回の戦利品をまとめ始めました。

その成果を確認しつつ、本屋としてどんなまなざしで本棚と向き合っていたのか、聞いてみましょう。

 

石井隊員(nostos books)の目利き

 

石井隊員の成果!持ち味を活かしたデザイン系の本が豊富だ。

 

石井:あー、今日は本当に嬉しい! 私、いつも同じような夢を見るんです。

—— ゆ、夢ですか……?

石井:夢の中でね、びっくりするくらい安いせどり向けの本屋と出会うんです。雑居ビルだったり、郊外の大きな倉庫だったり、シチュエーションは様々なんだけど。

—— へぇ! それは本屋として贅沢な内容ですね。

石井:それが、毎回何かしらの邪魔が入っちゃって、どうしても買うことができなくて。ゾンビが出てきて襲われたり、爆撃されてしまったり。「せめてお買い上げまでさせて〜!」と願っていたので、今日はその夢が叶った気分(笑)

—— 今回の企画より波乱万丈なせどりをしてる! でも、満足してもらえたなら何よりです。

 

『ホットショット』ノーマン・シーフ/役者やミュージシャンを撮ったポートレイト写真集。かねてから目をつけていた本書を、さすがの腕前で Valuebooks lab にて発見。

 

—— 仕入れの成果は上々でしたか?

石井隊員:ええ、めぼしい本をいくつか仕入れることができました。それにしても、どれだけ高くても1冊100円なんだから、びっくりしたなぁ。

—— よかったよかった! せどりをしている姿を見ていて気になったんですが、仕入れを考えながら本棚を見るときは、プライベートで読む本を探すときとモードは変わるものですか?

石井隊員:あー。特に意識はしていなかったけれど、言われてみると違うなぁ。たしかに、モードは変わりますね。

 

『いちねんせい』詩)谷川俊太郎 絵)和田誠/新しい学校生活をはじめる新一年生の気持ちを描いた絵本。「絵本ですが、イラストレーターの棚にも、詩の棚にも置ける幅広さを持った1冊です」。

 

石井隊員:個人として欲しいものを探すときは、単純に興味があるかどうか。シンプルな目線で見ています。

でも、店の仕入れとして見るときは、商品としての原価であったり、すでに店にある本とどういう風に関連づけて並べたりするか、を考えますね。本単体を見て判断するのではなく、店の本と組み合わせることでどんな打ち出し方ができるかを想像します。

それに、本の回転日数も大事。過去に仕入れたことがある場合は、だいたい何日ぐらいで売れていったのかを思い出すようにしてます。

nostos booksはほかの本屋さんと比べると単価が高いので、回転日数は長いと思います。それでも、ずっと売れない本は棚に差しっぱなしになっちゃいますからね。

—— なるほど、無意識的に本棚を見る目線は変えているんですね。

石井隊員:そうなんです、だから今も「あ、この本読みたいな!」と思いつつ、そこはグッと我慢して店に仕入れられるものをチェックしていました。

 

『ガウディの夏』五木寛之/「80年代にパルコの広告などを手がけたデザイナー・石岡瑛子の装丁。五木寛之の小説というよりも、石岡のプロダクトデザインとして店に置きたいですね」

 

石井隊員:うちはせどりをする機会はそこまで多くなくて、お客様からの持ち込みや配送された本を買い取ることが多いんです。でも、こうやって店舗に足を運ぶのもやっぱりいいですね。自分の知らなかった本がたくさん目に入るので、刺激を受けますね。

自分の店に入れられる本は選び終えたので、今からは個人的に欲しい本を物色してきます!

—— バイタリティがすごい。ありがとうございました、どうぞ本棚に行ってきてください!

 

高橋隊員(SUNNY BOY BOOKS)の目利き

 

さすがオールラウンダーの高橋隊員!仕入れ量は3者の中で随一です。

 

—— たくさんの本!持って帰るのが大変ですね。

高橋隊員:いやぁ、でも良い仕入れができました。

—— ふだんはどんなペースでせどりをしているんですか?

高橋隊員:毎週神保町に行っているので、そのタイミングで、ですね! 見る棚は、自分の店の棚に合わせて決めるんです。文学の棚が減ってきたな、と思ったら、そのジャンルをピンポイントでチェックするって感じですね。

お客さんの顔が思い浮かぶときもありますよ。「あの人、この作家が好きだったはずだぞ」なんて。

 

「これは思想、これは絵本、これはビジュアルブック……」と自分の店の棚に合わせて小分けしていく高橋隊員。

 

高橋隊員:僕って、本棚を見るときはもう”仕入れの眼”になっちゃったんです。「この本は店に入れられるか」という目線だけで、本棚を見ているんです。いち本好きとしては本棚をながめることはできなくなってしまった。それを取り戻すには、店をやめるしかないでしょうね。

—— えぇ! なんだか切ない話ですね。

高橋隊員:いやいや、それでもいいや、とも思っているんです。僕、家には自分の本棚がないんですよ。読んだ本は、そのまま店に出しているわけです。人からいただいたり、サインしてもらった本だけを家で保管しています。

—— そうか、自分の本と店の本、という境界線がなくなっているんですね。

 

『Tale of the Battle on the Kulikovo Field』Dmitrii S Likhachev/宗教画を扱った大判の洋書。カラーイラストが豊富な鮮やかな1冊だ。

 

—— 本を仕入れるときは、どんなところを意識しているんですか?

やっぱり一番は、値段ですね。だから、今日はすごく気軽な気持ちです(笑)

高くて仕入れられない本があったら、「また会うでしょう」て気持ちで離れるんです。すると、意外と違う店で安価な値段で見つけることもあって。無理して買わないのが肝心ですね。

—— ははぁ、まるで釣った魚を放流するような心持ちですね。

 

『バナナブレッドのプディング』大島弓子/現在も人気の作品だが、1980年に発売されたこの小学館文庫版は古本屋でないとお目にかかれない。

 

—— 値段はやっぱり第一なんですね。でも、その次は?

店の棚との相性、ですね。いい本であっても、在庫を抱えるのは避けたい。めぼしい本があったとしても、そのジャンルが店の棚に豊富にあったら手を出すのはやめます。

逆に、あるジャンルの棚が薄くなってしまっているときは、ふだんはあまり選ばない本を仕入れたりもする。そのときの店の状況によって、求める本の質が変わってくるんです。

—— 面白い!お店の棚に合わせて、能動的に仕入れ内容を変化させてるんですね。

 

とみさわ隊員(マニタ書房)の目利き

 

最後はとみさわ隊員。「欲しい本はたくさんあったけど、ほかのお客さんに悪いからちょっと遠慮したよ」とはにかみながら語ってくれました。

 

—— とみさわさんは、ふだんはブックオフがメインの仕入れですよね。どんな風に棚を見ていくのか、コツは掴んでいるんですか?

とみさわ隊員:うん、店舗によって位置は変わるけどブックオフのコーナーは把握しているから、ササッと見てしまうよ。基本的には、100円の均一棚しかチェックしないしね。

—— 大量の本棚を見続けてきたわけですから、もうほとんどの本は見たことがあるのでは……?

とみさわ隊員:いやいや、それがいまだに発見はあるんですよ! 1冊1冊をきちんと覚えているわけではないけど、背表紙に”なんとなくの記憶”があるから、本棚の前に立ったらパッとだいたいがわかる。だからこそ、見たことがない本が混ざっているとすぐに気がつくんだよね。冗談みたいだけど、そこだけが光って見える(笑)

 

とみさわ隊員の貴重な『探書リスト』。見逃しがないように、お目当ての本は携帯に記録している。

 

—— すごい、これぞせどりのプロの眼! そうやって見つけた本は、貴重なものだったりするんですか?

とみさわ隊員:そうだね! もちろん、珍しいからいい本とは限らないけれど、掘り出し物であることは多い。背表紙の書体が微妙にほかのものとは違っていたりして、変な本であることが多いんだよねぇ。

本屋を回れば回るほど無限に本の知識は増えていくけれど、それこそ本は無限に世の中にある。それに、知らない本と出会うだけでなく、うちの人気商品を見つけると「あった!」て嬉しくなるよ。

 

『子どもの絵』東山明・東山直美/「子どもの心理教育系の本だけど、うちだったらアート本のくくりかな。すでに3冊は売ったことのある本だから、補充できてよかった(
にっこり)」

 

—— なるほど! ほかの隊員の意見を聞いていると、見つけた本を仕入れるかどうかの基準は、やっぱり値段第一なんでしょうか?

とみさわ隊員:もちろんそうだね。自分の店での販売価格を想像して、「自分だったらこの値段で買うのか?」というのは考える。仕入れ値が高くて、自分の納得がいく値段で売れなさそうなときは諦めてるよ。でもね、ほかに掘り出し物を見つけるとちょっと事情が変わるんだ。

—— 事情が変わる?

とみさわ隊員:そう。もし「これだったらうちの店で高い値段をつけられるなー」という本が、安く売られていたとするじゃない? だったら、赤字になりそうで諦めていたさっきの本を仕入れても、2冊を合わせた収支で考えたら儲けが出るよね。いわば、掘り出し物がバーターとなって赤字の本を救うって感じかな。

—— へー! 面白い! 1冊単位で見たら赤字でも、トータルならOKということですね!

とみさわ隊員:そういうこと! いい本があることは、店の棚の彩りにもなるしね。まぁこれは、商売人の考えではないかも知れないね(笑)

 

『マリオペイント』糸井重里/「お絵かきゲームの攻略本なんだけど、糸井重里さんが手がけているから切り口が面白いんだ! ほら、『リキテンスタイン風につくろう』なんてページもあるよ」

 

—— うーん、書店によってそれぞれの仕入れ方があるんですねぇ。興味深い。棚を見るときのモードについては、どうですか? 仕入れとプライベートで目線は変わりますか?

とみさわ隊員:それは一切変わらない! なぜなら、僕の店の一番のお客さんは自分自身だと思っているから。僕の欲しい本しか売ってないんだよね。たとえば、古本市場での掘り出し物を見つけても、自分の店に置けないものなら買わないんだ。

—— さすが、どこまでも徹底してるんですね!

 

 

ほくほく顔で店を後にする3名の隊員

こうして、無事に今回の”調査”は終了。

たくさんの収穫物を手にする3人ですが、本のプロたちがどんな目線で棚と向き合っているのか、それを聞き出すことができたのも嬉しい収穫でした。

今回ご紹介した「Valuebooks Lab」、もちろん一般の方でも自由にお買い求めいただけるお店です。

上田をぶらりと観光しながら、ぜひ気軽に足を運んでみてください!

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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