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2019-05-16

「図書館」×「本屋」が提案する、本をめぐる新たなサービス

 

 

2019年4月23日、長野県立図書館とバリューブックスは、連携協定を結びました。「連携協定」という少しわかりにくい言葉ですが、要するにお互いの情報やスペース、商品(本)などを共有しながら、本にまつわるより良いサービスを作っていこう、というもの。「公共図書館」と「本屋」が創造する、新たな本の価値とは。

 

 


 

 

「信州・学び創造ラボ」オープン

 

2019年4月6日、県立長野図書館の3階に「共知共創」をコンセプトとした「信州・学び創造ラボ」がオープンしました。

ワークショップの参加者が選書した本棚や、3Dプリンター、半個室席、平置タッチパネル、簡易キッチンなど、従来の図書館にはないような設備が設けられた。本からインプットした情報を、その場でアイディアとして形にできるような仕組みになっています。

さらに、重厚な雰囲気の六角形書架には、編集する楽しみを知ってほしいと、古書の間を埋めるようにデジタル化した情報が並びます。たとえば、古い資料からスキャンした地図情報を載せたり、写真を引用したり。データ化された本を使って自ら編集することで、本の新しい価値を見つけることができます。

 

 

 

そもそも図書館と本屋、一見相容れない2つが、共に手をとり新たな場づくりに踏み出したのはなぜなのでしょうか。県立長野図書館館長の平賀研也さんが目指す「これからの図書館」の在り方に、その答えはありました。

 

 

ビジネスマンから図書館館長へ

 

平賀さんが長野県へやってきたのは、17年前。長く暮らした東京を離れ(一般企業で働くビジネスマンだったそう)、自身の暮らしを見直すため伊那市へ移住しました。その後、公募していた伊那市立図書館の館長に応募したことをきっかけに、彼の図書館と関わる人生がはじまります。

 

読み物としての本や、図書館というハコにとらわれず、時にはデータ化した本とともに外を散策し、情報と人、人と人がつながる場づくりを続け、平賀さんが館長になった数年後の2013年、全国の優れた図書館活動を表彰するLibrary of the Year にて、伊那市立図書館は大賞を受賞しました。

 

「県立図書館の改革をしたいので、きてくれない?」

 

伊那市立図書館での活動が評価された平賀さんのもとに、今度はそんな誘いが舞い込みます。そして2015年、県立長野図書館長に就任。今回の「信州・学び創造ラボ」の誕生は、改革に向けた大きな一歩となりました。

 

 

「図書館改革」はじまる

 

平賀:ぼくらはむしろ本ということにこだわらずに、今の時代、「知る」ということに真面目に向き合った図書館になろうということで活動してきました。そして、ここから新しい社会的な取り組みだったり、新しいコミュニティが生まれていってほしいという思いでこの空間をつくりました。これからの図書館は、ただ読書をするためだけの場所じゃなくて、みんなで表現する、コミュニケーションする、アウトプットしながら知る、そういうことが求められているんじゃないかな。

 

調印式では、バリューブックス代表・中村が淹れるお茶や平賀さんのコーヒーがふるまわれた

 

 

バリューブックスが示す、ものとしての本の価値

 

もともと平賀さんとバリューブックスは、古本市やトークイベントを通して付き合いがありましたが、こうして仕事を共にするのは今回がはじめて。きっかけのひとつとなったのは、先の「Library of the Year」。2018年、本屋であるバリューブックスもまた、「チャリボン」「book gift project」「エコシステム」などが評価され、(大賞こそ逃したものの)優秀賞を受賞したのです。

 


平賀:図書館のための表彰で本屋が受賞することで、バリューブックスさんは、ぼくらに改めて本の持つ情報やもの自体の価値というものを思ってもみない形で見せてくれました。たとえば、3.11で流されてしまった図書館を再建しようと本を使って寄付金を集める「ゆめプロジェクト」 や、長く読み継がれる本を作る出版社を応援する「エコシステム」など。同じく本を扱い、真面目に本のことを考えていかなきゃいけないぼくたち図書館が、そういう視点を持てていなかったということに、気づかされました。そして本屋も図書館も関係なく、一緒になにかできるかもしれないと思ったんです。

 

 

「信州・学び創造ラボ」オープン日には、ブックバスも駆けつけた

 

 

人と人をつなぐ「価値の交換」

 

バリューブックスでも、図書館のような仕組みをつくったことがありました。しかし、古本屋である私たちが無料で本を貸し出そうとしても、その不自然さから利用客はなかなか増えませんでした。当時担当者だった西山さんは、「一方的な本の提供ではなく、“価値の交換”という行為にこそ、人と人を結びつけるなにかがある」と実感したそう。「信州・学び創造ラボ」は、知識や情報を利用者に与えるだけでなく、自ら創造する楽しみを提案する場。今までにない新しい「価値の交換」が見られるかもしれません。

 

平賀:この図書館には110年分の本があります。そしてバリューブックスさんには、どういう本が価値のあるものとして読まれ続けているのか、という10年以上にわたって集めたビックデータがあります。寄付本を募ったり、古紙回収にまわす本の販売を図書館で実践するだけではなく、それぞれが持つ本と本をめぐる情報を使いながら、社会のためになるサービスを作っていけたらと思います。

 

 

県立長野図書館

http://www.library.pref.nagano.jp

長野県長野市若里1丁目1−4

※開館日はウェブサイトにてご確認ください。

 

 

 

撮影:篠原幸宏

posted by 北村 有沙

石川県生まれ。上京後、雑誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、気づけば上田へ。旅、食、暮らしにまつわるあれこれを考えるのが好きです。趣味はお酒とラジオ。

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