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本に触れる。
その小さなきっかけを届ける
ウェブマガジン。

2019-07-08

手渡すように本を届ける。 ひとり出版社が考える「顔の見える流通」〈夏葉社 島田潤一郎 インタビュー〉

 

 

 

 

古本の買取を行う私たちの倉庫には、毎日約2万冊の本が全国から届き、そのうちの半分にあたる約1万冊を、インターネット市場では価値がつかないことから古紙回収にまわしています。

 

しかし、中には時間が経っても価値の高い本ばかりを扱う出版社があります。彼らのものづくりを支えることで、よりよい本の循環が生まれるのでは。そんな思いから、本の売上の一部を出版社に還元する「エコシステム プロジェクトはスタートしました。

 

このプロジェクトでは、現在、4つの出版社と提携しています。

 

 

彼らはなぜ、消費することなく、読み継がれる本を作り続けることができるのか。

どんな思いで本を作り、読者のもとへ届けられているのか。

 

 

数字からだけでは見えてこない、本作りへのこだわりを聞いてみたい。

バリューブックスが考える「いい出版社」を巡る、連載企画です。

 

 

この記事は1年限定の公開となります。その理由は下記をご覧ください。

 

 

3回目となる今回は、編集から営業、発送まで行う、ひとり出版社として知られる「夏葉社」へ伺いました。

 

夏葉社から刊行される本は、年に3冊。

世の中に広く受け入れられるベストセラーを目指すのではなく、

ひとりの読者に何度も読みかえしてもらえるように、本を作ります。

 

編集未経験ながら出版社を立ち上げ、今年でちょうど10年。

島田さんが見てきた「出版」という世界はどういうものだったのでしょう?

 

“もの”への愛着、

人との距離を優先した流通、

そして、新レーベル「岬書店」について。

 

自身の編集者人生をなぞりながら語ってくれました。

 

聞き手は、ブックコーディネーターでバリューブックス社外取締役でもある内沼晋太郎と、バリューブックス編集部・飯田光平がつとめます。

 

 

 

 

PROFILE

島田潤一郎(しまだじゅんいちろう)

1976年、高知県生まれ。東京育ち。アルバイトや派遣社員をしながら、ヨーロッパとアフリカを旅する。小説家の夢を諦め、2009年9月に33歳で夏葉社を起業。著書に『あしたから出版社』(晶文社)、『90年代の若者たち』(岬書店)がある。http://natsuhasha.com/

 

 

 

 

内沼:今回は取材をお願いさせていただいた時、一旦お断りいただいたんですよね。

 

島田:そうですね。

 

内沼:そこで、この記事は1年間限定の公開というお約束で取材をさせていただいています。

 

島田:ウェブメディアの取材もこれまでいくつか受けてきましたが、5年前に話していたことって、今の自分の考え方とは違う気がするんです。恥ずかしいというか。

 

内沼:何年も前のことがずっと残って、今の言葉のように見られ続けるのは控えたいということですよね。

 

島田:はい。時代にあわせて自分の考えも変わっていくので。起業してもうすぐ丸10年になるんですけど、社会の消費スピードってどんどんあがっていますよね。インターネットの世界ではよく「バズる」とかいいますけど、いかに拡散できる情報を発信できるかどうかが勝負になってきている。情報を瞬発力の高いものに編集して、アウトプットし続けなければいけない、ということに対して危機感がある。

 

もう少し長いスパンで仕事をすべきだと思うんです。ぼくが学生だった90年代の本の捉え方は、もっとゆっくりで、重たくて、かったるいもの。本の本質はそういうところにあると今でも思っています。

 

 

 

 

【ここからの先のインタビューは、2020年7月8日までの期間限定公開となります。】

 


 

「もの」として愛される本

 

 

島田:ぼく、ブックオフが好きなんです。とくに280円のCD棚がすごく好き。90年代の墓場みたいになっている。

 

内沼:あの時代にあんなに高く売られていたCDが。

 

島田:そうそう! ベックとかビョークとかビートルズも280円。

 

 

島田:昔はみんな、“もの”が命みたいな。CDも本も、とにかくたくさん持っていました。

 

内沼:買ったものはすごく大切に聴くし、読んでいましたよね。

 

島田:飯田さんはCDとか買います?

 

飯田:ぼくは買わないですね。同世代(20代)の人は多いと思うんですけど、そもそもCDを再生するものを持ってないんです。代わりにspotifyで聞けてしまいますからね。でも本だけは、手元に置いています。

 

内沼:CDとちがって本はまだ、“もの”として大切にされている気がしますね。

 

島田:きっとこれからも残っていくでしょうね。

 

島田さんが最近買ったという『田原俊彦A面コレクション』(1986年)

 

 

飯田:島田さんが作るのはまさに“もの”としての本ですよね。どうして長く読まれる本を作り続けることができるんでしょう?

 

島田:すでに評価が定まっている本を復刊していることが多いですし、あとは、なるべく他社がやらない仕事をやろうとしているからでしょうか。大手では編集会議にあげてもGOサインが出ないような、ニッチな企画がやりたい。広く読まれることより、ひとりの読者に長く読んでもらえるようにしたいんです。

 

飯田:ひとりの読者に向けて本を作る。だからこそ、“もの”として長く愛される本が生まれるんですね。

 

 

 

 

書店の棚を思いながら本を作る

 

 

内沼:創業当初と比べてここが変わったな、と思うところはありますか?

 

島田:これはもうはっきりしていて、出版社から書店への流通の仕方です。

 

内沼:つまり、出版した本が取次経由で書店へ届くか、出版社から直接書店へ届くかということですよね。

 

島田:はい。創業3年の頃は、8~9割が取次経由でした。10年目の今はというと、直取引が取次経由を上回り、半分以上がここから書店へ直接発送していることになります。

 

内沼:直取引が増えることでどういうメリットが?

 

島田:いちばんは、書店との距離の近さにあります。

 

内沼:書店との距離の近さ。

 

 

 

 

島田:たとえば本を作るときに、ぼくはひとりで企画を考えるわけですけど、そこで書店の店主の視点を借りる。

 

「広島のREADEN DEATさんではこの本は売れないだろう、熊本の橙書店さんとは相性が良さそう、京都の善行堂さんには評価してもらえそう」と。

 

どんな店で、どんな店主が、どんな棚を作っているのか。それはいつも頭にあります。店主の信条や大切にしているものを忘れなければ、そんなに間違うこともないと思うんです。

 

内沼:直取引だと、書店とコミュニケーションをとるようにして、本を作ることができるんですね。反対に取次経由で配送された本は、どの店で、どのくらい売れた、という情報は入ってこないんでしょうか?

 

島田:ほとんど入ってこないです。わからない相手に対してものを作ろうとすると、当たる確率も低くなりますよね。

 

 

 

 

 

 

 

たくさんの本が返ってくる

 

 

島田:直取引を進めていきたいのは、もうひとつ理由があるんです。

 

内沼:なんでしょう?

 

島田:この本、見てもらえますか? 最近、返本されて戻ってきたものなのですが……

※返本・・・書店が仕入れて売れ残ってしまった本を、取次会社を通して出版社へ返すこと

 

 

 

 

内沼飯田:!!!

 

内沼:図書館のラベルが貼られている? 一体どういう経緯で……。

 

島田:書店がパッケージングして図書館へ納品することがあるんですよね。おそらくその時にキャンセルになったものとかじゃないかな。

 

飯田:どこの店から戻ってきたのかもわからないんですか?

 

島田:取次経由だからわからないんです。こっちの返本の段ボールは今はじめて封を開けますけど…

 

 

 

 

島田:廃棄、廃棄、これも廃棄。これは(表紙カバー)かけ直し。これはこのままいけるかな。これは角折れだから廃棄、これもかけ直し……

 

飯田:この中でどれくらいが商品として再度販売できるんですか?

 

島田:カバーをかけ直すことなく、そのまま新刊書店に出せるのは、経験上1割ですね。

 

飯田:そんなに少ないんですか…

 

島田:委託で書店に並んでいるところまではちゃんと「商品」として成立しているのに、返すことが決まった瞬間、粗雑に扱われてしまうんですよね。

 

これがフェアなどで出版社から直接書店に送り、また書店から返本される場合は、本の状態は全くちがう。

つまり、一対一の顔の見えるやりとりだと、きれいな状態で本が返ってくるのに、そこへ何かシステムが入ると、途端に扱いが雑になる。

 

店頭で傷んでしまったり、段ボールに入れなおされたりする過程で、本が汚れていくのは仕方のないことかもしれない。でも、いくらぼろぼろな状態になっていても、一度も誰にも読まれていない本は、ぼくらからするとまだ新刊なわけです。

 

今まではこれを受け入れていたけど、やっぱりおかしい。だから、夏葉社とは別レーベルを立ち上げました。こっちでは、今のところ書店との直取引だけで、本を卸しています。ある種の実験ですね。可能性を試してみたい。

 

 

岬書店から発売された『90年代の若者たち』。スリップの裏には島田さんの描いた似顔絵が。

 

 

内沼:それが「岬書店」?

 

島田:そうです。量を捌くことを前提としたシステムを介さなければ、もっと自由に、もっと大胆に本が作れるはず。バーコードも決まった位置につけなくていいし、粗雑に商品を扱われることがないなら、極端な話、プラモデルの完成品だって送れるわけですよ。効率をよくして規模を大きくするより、小さな規模でいいから、刷った分の返本が0になる方法を探していきたいですね。

 

 

 

 

 

小さな出版社としての苦悩

 

内沼:夏葉社は年に3冊だけ新刊を出していますが、1冊1冊が資産になるように本を作っているように感じます。

 

島田:ありがとうございます。恐縮です。作った本が「絶版になってもいい」とは思わないし、「売れなければ断裁すればいい」とも思わない。とくにぼくらのような小さな出版社だと、なるべく本を「消費」したくないんです。でも、1年に50冊ずつ売れる本の在庫が0になった時、すぐに増刷するというのは、経営者としてはできない判断。

 

内沼:1000部刷ったとして売り切るのに20年にかかるわけですもんね。

 

島田:大きな出版社だと5000とか1万の単位で売れる本であればできますが、小さい出版社だとそれは難しい。

 

 

 

 

内沼:欠品している本も多いんですか?

 

島田:10点以上ありますよ。お金ができたときに増刷しようとは考えています。書店へ増刷した本の営業にいけば、たとえ5年ぶりの増刷だったとしても、また取り扱ってもらえることが多いですから。

 

内沼:出版社さんにとっていいかどうかは、いろんな考え方がありますけど、欠品している本があって、それでも読みたいという人たちの需要を叶えるのが、ぼくら古本屋の大切な仕事だと思っています。

 

 

 

 

そのテーマに新鮮さはあるだろうか

 

内沼:創業からずっと吉祥寺ですが、拠点を東京以外に移すことは考えますか?

 

島田:今のところはないですね。本を作ることって、新しいものを作ることだと思うんです。それは最先端という意味じゃなくて、新鮮さがあるかどうか。

 

自分が本屋さんへ行った時に買いたい本って、誰もが認める名著ではなく、心を揺さぶる新鮮なものなんです。こんな本があるんだ、という発見にわくわくする。ぼくが作りたい本って、そういうもの。そして、それは東京でなくちゃ作れない気がしていて。

 

飯田:東京にいる方が新鮮なものが作れる?

 

島田:作りたい本は、心の内側からというよりも、外から影響を受けて、ああやってみたい、と思うことがほとんどなので、吉祥寺みたいにいろんな本屋さんがある場所はものを考えたり、企画をするのに向いているんです。

 

本屋がない町で企画を考えようとした時、すべてがSNS頼りになってしまいそうで危うい。50代になったら、また考えも変わるのかもしれないけど、今はまだ、東京という土地から受ける影響は大きいです。

 

 

古本屋で見つけた好きな本の形

 

 

島田:でも、なにが新鮮かは世代によっても変わりますよね。とくに若い子たちの目に新鮮に映るものじゃなければ、仕事は続かない。彼らのほうが僕よりずっとセンスがいい。

 

だから岬書店では、若い人たちとも組んで、今よりもっと自由にものづくりが楽しめたらいいなと思っています。月間ドライブインの橋本さんや誠光社の堀部さんのような、僕が影響を受けた人たちみたいに面白いものを作りたい。

 

内沼:上の世代の人たちに認めてもらいたいという思いが強かった創業当時から、今は下の世代を意識したものづくりに移行しつつある?

 

島田:はい。たとえば、本っておもしろいなと思ってもらえるように、一般的な四六版で作ることはほとんどなく、だいたい少し小さめに、ものとして新鮮に映るように意識しています。佇まいがかっこいい本は、視界に入りやすいから。

 

内沼:そういった意味でも、amazonで選ばれる本と書店で選ばれる本って全然ちがいますよね。

 

飯田:たしかに、本の書影からだけではサイズも質感もわからない。

 

島田:それはそれで、届いた時の驚きもあるかもしれないけど、うちは積極的にamazonに流通させることはしていないです。

 

飯田:自社サイトでの販売もとくにやっていないですよね。

 

島田:卸先の書店には通販をやっているところもあるので、自社ではいいかなと。手間というより、書店に対する「共存・共栄」の気持ちからでしょうか。本はなるべく書店で買ってほしい。

 

 

 

 

 

 

エコシステムがつなぐ本の再生

 

 

内沼:バリューブックスが行う「エコシステム」を通して、夏葉社さんには古本の売り上げの一部を還元させていただいているのですが、今のどころどのようなことに使われていますか?

 

島田:まだ使い道を考えていて、そもそも発行部数が少ないので戻ってくるお金も5万円くらい。だけど、その5万円あったらなにができるかな……。あ、カバーの増刷とか。

 

内沼:カバーの増刷?

 

島田:先ほど、お話した返本されてくる本のカバーです。去年は『ラヴ・レター』という本のカバーを増刷しました。

 

内沼:本をまた綺麗にするお金に使われると。

 

島田:そういう資金にあてられるのはありがたいです。

 

 

 

 

飯田:カバーのかけ直しもそうですが、本の発送や営業まですべておひとりでされていますよね。人を増やすことは考えないですか?

 

島田:元気なうちは自分でやりたいですね。納品書もなるべく手で書きたい。バーチャルな仕事ではなくて、手足を使って物事を考えていきたい。効率的じゃないけど、だからこそわかることもある。本を届ける先にはいつでも人がいるということ。

 

 

 

 

 

撮影:門脇遼太朗

 

 

 

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posted by 北村 有沙

石川県生まれ。大学卒業後、ライフスタイル誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、あれよあれよと上田市へ移住。映画とサウナ、ビールなどが好き。

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