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2019-12-13

500人のボランティアをマネジメントする <前編:ボランティア編>

 

ずらり。

 

 

ずらり。

 

 

ずらり。

 

 

こんにちは、バリューブックスの飯田です。

今回、僕はとあるNPOが手がける研修に潜入しています。

お邪魔したのは、「認定NPO法人ブリッジフォースマイル」。ブリッジフォースマイル(以下、B4S)は、様々な家庭の事情から家族と暮らせない子どもたちの自立を支援するNPOです。児童養護施設で生活する彼らに、退所後のひとり暮らしのノウハウを教えたり、精神面のサポートをしたり、様々な面からサポートを施しています。

バリューブックスが手がける古本を使った寄付サービス、「チャリボン」のいちパートナーでもあります。

今回取材に至ったのは、ある日B4Sの方とお話していたら、ぽろりと「うちには、ボランティアが500人所属しているんです」とお聞きしたからで。

 

ご、ごひゃくにん!

その数もびっくりですが、それだけのメンバーをどのようにまとめているのか、”ボランティアマネジメント”のお話を聞いていると興味深いエピソードがいっぱいで。

改めて取材の機会をください、と伝えて今回に至りました。

 

お見せいただいたのは、B4Sが手がけるプログラムのひとつ、「巣立ちプロジェクト」の研修。

児童養護施設に入所している子どもたちは、高校を卒業したらひとり暮らしを始めなければいけません。引っ越しの手続きやお金の管理など、生活のために必要な知識をセミナー形式で子どもたちに伝えるのが「巣立ちプロジェクト」。写真に並ぶのは、それを行うサポーターと呼ばれるボランティアのみなさんです。

このプロジェクト、毎年8月から翌年1月までの間に全6回行われるのですが、その6回の前週に毎回研修を行います。つまり、サポーターさんにとっては全12回参加することになるプロジェクト。今回は、その研修の初回に当たります。

 

 

会場を埋め尽くす老若男女のサポーターが、じっと真剣にモニターを見つめます。この日は朝9時に研修がスタート。ランチ休憩をはさんで、15時半までの開催です。

これだけ自分の時間を費やして、ボランティア活動を行うサポーターが何百人もいる。そこには、どんな理由や仕組みがあるのでしょうか。

今回の記事は、サポーターの方を取材した前編と、運営元である事務局に話を聞いた後編の2本立て。

まずは、サポーターである「あくちゃん」と「ばーばら」に話を聞いていきます。あ、そうそう、お気づきのとおり、B4Sではみんなニックネームで呼び合うんです。

 

 

仕事とは違う活躍の場所

 

左)あくちゃん サポーター歴 3年目
右)ばーばら  サポーター歴 2年目

 

━━ では、よろしくお願いします。

あくちゃん&ばーばら:よろしくお願いします。

━━ まず、率直な質問なんですが、おふたりはどうやってB4Sを知ったんですか?

あくちゃん:
インターネットで、「教育 ボランティア」で検索したんです。

━━ すごくストレートな検索ですね。

あくちゃん:
働いている会社では、社員が全員、一定時間ボランティア活動をするようにしています。どうせやるのだったら、自分の興味のあることをしたくて。教育には前々から興味があったんです。そのときの募集は「巣立ちプロジェクト」ではなくて、スピーチコンテストを軸に奨学金などを支援する「カナエール」ということもあって。

ばーばら:
私も、何かボランティアをしたいと思っていたんです。子どもの貧困問題解決に取り組む『働きながら、社会を変える。』という本を読んだのも大きくて。子どもたちを取り巻く問題を、直接彼らと関わりながら解決できる団体を探していて、B4Sを見つけたんです。

子どもたちって、参政権がないじゃないですか。彼らは投票によって社会に関わることはできないけれど、大人が繋がることによって社会に影響を与えることができるかも知れない。ちょっと偉そうな考えかも知れないけれど、そんな風に思っているんです。

 

━━ おふたりとも、はっきりした活動意欲があるんですね。すごいなぁ。実際にB4Sで活動してみて、どうでしたか?

あくちゃん:
仕事と両立しながら幅広く活動できているので、よかったです。場合によっては、月に2回でも1回でもいいですし。あと、比較的関わりやすい環境が用意されているのもありがたいです。

こうした活動って、専門家のように高度な知識を持った上で、子どもたちと接する必要性も出てきたりします。もちろん、最終的にはそうした支援も必要だとは思うのですが、今の僕にはそうしたスキルもないし、将来的にもそこまで踏み込むのは難しい。でも、「これぐらいのお手伝いならできるな」という環境が用意されているので、取り組みやすいです。

 

 

━━ ボランティアとしての関わり方って、0か100かじゃないですもんね。

ばーばら:
私は、子どもたちと直接関わりたい、という当初の気持ちは期待通りに満たされているんです。それに、B4Sにもこれまでのノウハウが溜まっていて、セミナーも充実しているんです。なので、全くの初心者であっても求められていることが明確に分かって、あくちゃんが言っていたように、飛び込みやすい環境です。

あとは、サポーター同士の繋がりも楽しくて、それはちょっと意外でした。正直、ボランティアに来る人たちって、主張が強くて怖い人が多いのかな、て思っていたんです(笑)
でも、全くそんなことなくて。ふだんしている仕事とか、これまでの経歴とか、そうした肩書きをなくして一対一の個人として接することができるのは、新鮮で楽しかったです。

 ━━ たしかに、大人になってからのまっさらな人間関係ってなかなかありませんね。

ばーばら
ふだんは、活動が終わったあと飲み会に行くんです。「今日は子どもにこんなこと言っちゃったんだけど、大丈夫かな」て相談することもあるけれど、全然関係ない話もして。そうした体験は会社の中だとしにくいですからね。B4Sは老若男女がニックネームで呼び合うので、自然と打ち解けやすいですね。

 

 ━━ みなさん、ニックネームでおたがいを呼びあってますよね。

 あくちゃん:
ニックネーム制度って、いいんですよね。サポーター同士で意見を交わし合うときに、ニックネームだと話しやすかったり、優しく言えたりして。

 ━━ ああ、たしかに。おたがいの距離感をぐいっと近づける仕組みになっていますね。

 

 

子どもたちの成長に直に触れながら

 

 

━━ 研修を受けて、実際に子どもたちと触れ合ってみるとどうでしたか? 想像どおりだったり、そうではない部分があったり。

ばーばら:
第1回目はかなり覚悟していて。それこそ、話しかけても「うるせーババア」なんて言われたらどうしよう、て(笑)でも、実際はそんなことはなく、みんないい子たちだったので安心しました。

逆に驚いたこともあって。クリスマスの時期だったのでケンタッキーやお寿司を買ってみんなで食べたんです。なぜかと言うと、施設の中で生活しているとこうしたものを食べたことがない、という子どもいるからで。そういう生活があるんだ、とそこで気がつきました。

 

あくちゃん:
たしかに、思った以上にいい子たちだな、と感じることは多いです。ただ、「巣立ちプロジェクト」では、高校3年生なのである程度大人っぽくて、施設からも参加できると判断された子たちなんですよね。

直接施設に赴いてワークショップを行うプロジェクトもあるんですが、一言も話してくれない子たちもいます。とはいえ、施設内のセミナールームに来てくれているだけでも、大きな一歩なんですよね。眠かったり、食事を早く切り上げたうえで、知らない大人といきなり話すって、無茶と言えば無茶ですよね。話してくれなくても、最後まで座ってくれているだけで十分です。そして、そんな様子でも意外と話を聞いてくれてたりするんですよね。

 

 

━━ それは、どうして気がつくんですか?

あくちゃん:
ワークショップでは、最後に子どもたちに感想を書いてもらうんです。そこに僕がしゃべったことが少し書いてあったり、テキストを子ども自身で持って部屋を出ていったり。ささいなことかも知れないですが、職員の方が「持って帰りなさい」と言ったらそうする、という子もいるので。向こうから話しかけてくれたりすると、僕の伝えたことが少しでも体の中に残ってくれているのかな、と思います。

ばーばら:
一番記憶に残ってるのが、自己PRを書いて話す、という面接練習のワークショップで。寡黙な子で、はじめは自己PRを書けなかったんです。ですが、にぎやかな子たちが話し合っていることにたいして、「その話って、まとめるとこうだよね」と整理する頭の良さがあったり、「本当に思っているのは、こっちじゃないのかな」と推測してあげる優しさもあって。「ほら、そういうことができるじゃん」と伝えてあげたら、自信を取り戻してくれたようで。

━━ 自分では気づいていなかったわけですね。

ばーばら:
もしかしたら、学校とかいつもの生活ではできない部分を指摘されてばかりだったのかも知れないけれど、ふだん接しない大人だからこそ気づいてあげられたのかな、と思っています。

あくちゃん:
人前で何かを発表するのが苦手で「絶対にいやだ」と言っていた子が、回を重ねるうちに自分で内容を頑張って覚えて発表してくれたこともあって。とてもおとなしく、自己主張をしない子だったのに。そうした成長を目の前で感じられるのは、とても嬉しいです。

 

本当に子どもたちの役に立てているんだろうか

 

 

━━ おふたりとも、ボランティア活動のことを楽しそうにお話しされますね。

あくちゃん:
確かに、活動からエネルギーをもらうところはありますね。自分は、「教育」に大きな関心があって。大学に行かせてもらったことに感謝もしているし、もっと勉強するチャンスはあったのにな、という後悔もある。でも、僕がボランティアに参加したときは、施設にいる高校生の30%ぐらいしか進学できていなかったんです。

教育に関わる、というのは僕の人生にとってひとつのピースなんですが、それを仕事で埋めることはできない。B4Sでそれが多少なりとも埋まりつつあるので、僕にとっては必要な活動なんです。

━━ 埋まらないピースを、仕事ではなくてB4Sで埋める。

ばーばら:
高校生たちはもちろんですが、様々な業界で働くサポーターたちとも触れ合うことで、聴く力って言うのかな、コミュニケーション能力が上がっている気はします。私、ふだんはコンサルをしているんです。いろいろな人の意見を聞きながら答えを構築する、そんなヒアリング能力は増している実感があります。

 

 

━━ おふたりとも、自分のしたいことを、自分なりのペースで進められている印象です。逆に、不安を覚えることもありますか?

あくちゃん:
うーん…… あの、正直にお話しすると、「これで役に立てているのかな」という気持ちもあります。社会的養護って、生半可な話じゃないので。自分は、知識や薄っぺらい経験を増やしているだけで、本当に貢献できているんだろうか。その不安は、活動をすればするだけ出てきたりもするんです。

 

※ 社会的養護
親がいなかったり、虐待を受けていたりと、家庭で生活することのできない子どもたちを社会で養育する仕組みのこと。

 

あくちゃん:
目の前で彼らと接していて、役に立てたかな、と実感することもあります。でも同時に、その後に学校や仕事を辞めたということを知ったり、「本当は大学に進学したかったんだ」という話を聞いたりしたときは、自分に無力感を覚えることもあります。とはいえ、ボランティアの活動として、僕自身がさらに深いところまで踏み込むのは難しいという感覚もあって。

プログラムが用意されているから、素人の自分でも参加できるけれど、だからこそプログラムを越えての深い支援はできない。そこのジレンマは、感じたりもします。

 

 

━━ ああ、なるほど。気軽に参加できるように設計されている分、”その先”まで手を伸ばすのが難しいですものね。

ただ、びっくりしたのが、参加しやすいと言っても「巣立ちプロジェクト」の活動は1年間で全6回あって、毎回その前週にかっちりした研修があるわけですよね。すごく丁寧だな、と感じたのですが、実際にそれくらいの準備は必要だと思いますか?

ばーばら:
「巣立ちプロジェクト」は長く行われているものなので、その中で磨かれてきた最適解だと思っています。今の長さ、ボリュームでちょうどいいんじゃないでしょうか。

あくちゃん:
僕も、そう思います。事前の研修がないと、サポーターもお客さんになっちゃいますからね。サポーターはつくる側、演出する側ですから。サポーターたちが意思を統一して、しっかりしたサポートを行うためにも、十分な段取りは必要だと思います。

 

 

サポーターにとっての”事務局”

 

━━ B4Sには、多くのサポーターが所属していますが、事務局の存在がありますよね。サポーターにとって事務局って、どんな相手ですか?

ばーばら
うーん…… 事務局だからどう、という感覚は薄いですね。先輩、取りまとめてくれる人、といったイメージです。

━━ まったく違う役割の人、というわけでもないんですね。

ばーばら
ニックネームの力もあるかも知れません。それこそ、子どもだろうが事務局だろうが、ニックネームで呼び合う対等な関係なので。

あくちゃん:
サポーターから事務局にいろいろと自由に言える環境というのもありますから。

ばーばら:
そうそう。逆に、サポーターから様々な意見が出ていて、中には真逆のものもありますから、事務局が混乱しているのがかわいそうだな、という思いもあります。言いやすい環境だけに。

あくちゃん:
「巣立ちプロジェクト」に参加する子どもたちも増えてきていますし、それは事務局が調整を繰り返すなかで養護施設からの信頼を獲得してきたんだろうな、て思っています。

 

━━ こう、サポーターと事務局の間には溝があったりするのかな、勝手に想像していたのですが、おふたりからいたわる声が出てきて、ちょっと意外です。では、そのうえで、B4Sがもっとこうなればいいのに、という課題は何かありますか?

あくちゃん:
うーん……

 

 

━━ 言いづらいかも知れませんが(笑)

あくちゃん:
いいづらいですね(笑) 

でも、そうだなぁ、プログラムがひとつひとつ出たとこ勝負なところがあるけれど、もっと定期的な、子どもたちにとって当たり前のものとして差し出した方がいい、というのは思います。今は、開催が決まったら事前に子どもたちに連絡するんです。ただ、それだと能動的に動ける子じゃないと反応できない。埋もれている子どもたちがいるんです。

毎月が難しければ、奇数月だけとかでもいい。そうやって定期的に接する機会があれば、彼らも繋がりたい時に繋がれる。そうした、あって当たり前の存在となって伴走できたら、と思います。

━━ ルーティン化、ですね。それこそ、月曜日といえば燃えるゴミの日だ、みたいな。

あくちゃん:
そうです。そのレベルで子どもたちに認知されると、彼らも連絡しやすいんじゃないかな。サポーターの方だって、より参加しやすくなりそうです。もちろん、事務局が人手不足のなかで頑張ってる、というのも分かっています。

 

━━ 「事務局、たいへんだなぁ」て、思います?

あくちゃん:
思いますね。いつ休んでるんだろうって。

ばーばら:
私たちの仕事って、頑張ったら頑張った分だけお給料がもらえたりしますよね。でも、こういうNPOの仕事ってそういう形で収入に結びつくものではないから、少し心配です。

事務局:
あの、最近は制度は整えて、給与面も変えてきているので大丈夫です!(笑) 影できっちり休んでもいるので。

━━ 誰が誰に言い訳しているのか、ちょっと不思議な構図ですね(笑)

あくちゃん:
続けることは、重要ですからね。NPOの職員の人が続けられないと、活動自体が終わってしまうじゃないですか。続けられる体制でいて欲しいですね。

 

 

自分のすべきことを、楽しく続ける

 

 

━━ その点で言うと、おふたりはサポーターを続けられているわけじゃないですか。お金が出ているわけではない。やめてたっていい。

あくちゃん:
プログラムによっては、有償の研修だってあるわけですからね。

━━ 会社で言えば、お金を払うから働かせてください、みたいなものですよね。それなのに、どうして続けるんですか?

ばーばら:
単純に、趣味に近いから、かなぁ。だって、楽しかったらやめませんよね。それこそ、お金を払ってもやること。お金だけの話で言えば、自分が大学院に行っていたときの感覚とも近くて。そのころだって、学費を払って研究室の仕事をしていましたから。自分のしたいことをしているだけ、という気持ちです。

あくちゃん:
「カナエール」というスピーチコンテストで関わった子の存在は大きいですね。奨学金に関するプログラムなので、卒業までに月1回、彼と面談を行っています。引き受けたからには、僕もちゃんと続けていこう、と。今は彼が大学3年生ですが、卒業した時がひとつのターニングポイントになると思います。また同じような子と出会うかも知れないし、ほかのことをやるかも知れない。

 

━━ 楽しさと義務感が、いい具合に混ざってるんですね。

あくちゃん:
そうですね。もうちょっと大げさに言うと、義務感というより使命感かなぁ。たしかに、楽しいです。でも同時に、やるべきことだと思っています。

━━ あぁ、いい言葉ですね。すべきことを、楽しく続けていく。おふたりが意欲に満ちているのに、気負った雰囲気がない理由が分かった気がします。

 

 

現場で感じること、日々考えていることを、率直に話してくれたあくちゃんとばーばら。次は、運営元であるB4Sの事務局にお話を聞いていきます。

 

500人のボランティアをマネジメントする <後編:事務局編>

 

posted by 飯田 光平

株式会社バリューブックス所属。編集者。神奈川県藤沢市生まれ。書店員をしたり、本のある空間をつくったり、本を編集したりしてきました。

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