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2019-01-18

NABOオープン5years記念プレイベント ブックコーディネーター・内沼晋太郎と語らう「NABOと本屋のこれまでとこれから」

 

バリューブックスのリアル店舗「NABO」が2019年でオープン5年目に入るのを記念してスタートした定期イベント「NABO 夜話」。そのプレイベントとして、2018年11月17日、『これからの本屋読本』刊行記念のトークショーを開催しました。著者である内沼晋太郎は、ブックコーディネーターの仕事をしながら、バリューブックスの社外取締役も務めています。さらにこの日は、長野県伊那市高遠町の有機農家「ORGANIC FARM 88」のマイクロブルワリー「Peccary BEER」が飲めるスペシャルな1日。本とビールを手に、本屋のこれまでと、これからを語ってもらいました。聞き手はバリューブックスから、NABOの生江が務めます。

 

▼ 今回のトークはこんな内容です

本を仕事にするということ

実態の見えない本屋の仕組みについて

これからの本屋に欠かせない、本の「掛け算」

バリューブックスが目指す、本業界の未来

アジアの本屋事情

Amazonを超えるインターネット書店は生まれる?

 

興味がそそられる項目があれば、是非ずいずいと読み進めてみてくださいね。

 

 

 

 

『これからの本屋読本』は現在、無料で公開しています。

トークショーの内容と合わせてご覧ください。

『これからの本屋読本』をすべて無料で公開します。【全文公開】

 

 


PROFILE

 

 

内沼晋太郎(うちぬましんたろう)

ブック・コーディネーター/クリエイティブディレクター

1980年生まれ。本にまつわるあらゆるプロジェクトの企画やディレクションを行う「NUMABOOKS」代表。ビールが飲めて毎日イベントを開催する新刊書店「本屋B&B」をはじめ、「八戸ブックセンター」、「神保町ブックセンター」など、全国で数々の本屋をプロデュース、ディレクションしている。また、バリューブックス の社外取締役も務める。著書に『本の逆襲』(朝日出版社)など。共著に『本の未来を探す旅 台北』(朝日出版社)など。

 

 

 


 

 

 

仕事のルーツは暮らしのなかに。

 

 

生江司会を務めるバリューブックスの生江です。10年以上本屋さんで働いてきて、2018年4月からバリューブックスでNABOの運営や古本の卸を担当しています。さて今回は、『これからの本屋読本』の話をベースに、内沼さんのこれまでの仕事と、これからの仕事について、話ができたらと思うのですが、パーソナリティ的な部分を聞いても大丈夫ですか?

 

内沼もちろん!なんでも聞いてください。

 

生江内沼さんはこれまでに3冊の本を出版されていますよね。2009年『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』、2013年『本の逆襲』、そして今回の『これからの本屋読本』。

 

内沼だいたい5年に1冊くらいのペースで出していますね。最初に出版した『本の未来をつくる仕事/仕事の未来をつくる本』は、ぼくが28歳くらいの時のもの。

 

生江本と仕事、なぜ2つのテーマで?

 

 

内沼元になる原稿があったのですが、本のことだけだと文量が足りなかったんですよね(笑)かつ、この本を担当してくださった編集者からすると、ぼくの働き方そのものがおもしろく見えたみたいで。つまり就職氷河期の大学生で、新卒で入った会社を2ヶ月でやめて、書店でバイトをしながら、フリーランスとしても仕事をしている。そういうのが当時めずらしかった。「仕事論みたいなのも書いたら?」といわれて書いたのが裏側です。

 

生江いまの本屋読本にもつながりますが、「好きなことを仕事にしよう」という考え方ですよね。

 

内沼そうですね。いまだにこの仕事の本に影響を受けたと言ってくれる人がたまにいて、うれしく思います。今はもう品切れになっていて、それこそ古本じゃないと手に入りません。

余談ですけど、古本ってたくさん出回ると、amazon のマーケットプレイスで1円とかになりますよね。でも自分で書いた本が品切れで、かつ1円とかって価値がないみたいで嫌じゃないですか。だからぼく一時期は、この本が1000円を切ると自分で買うようにしていたんです。それをやるとどうなるかというと、古本の市場が高いまま維持される。かつ、買った本を人に気軽にあげられる。著者は本を書くと出版社から8掛で本を買えるんですが、定価が2200円なので、古本を1000円で買うほうがずっと安いですよね。そういうテクニックを駆使してたくさん持っています。まだ50冊以上あるかな。

 

 

 

生江内沼さんの仕事のルーツでいえば、「book5」という毎号特集が変わるリトルプレスでも寄稿されていましたよね。この時の特集が学習参考書というすごくニッチなテーマ。そこで、内沼さんは高校生のときにすでに参考書のブックセレクトをしていた、と書いてありますが……

 

内沼そういうやつクラスに一人くらいいましたよね。

 

生江実はぼくもそうなんです(笑)

 

内沼本当ですか!?(笑)

 

生江しかも、ここに出てくるその「芳林堂書店 高田馬場店」は、ぼくも浪人している時に通っていました。参考書の数にびっくりして、結局参考書マニアになって勉強しないという。

 

内沼ぼくも完全にそうでした。友達と一緒に受験勉強している時、数学のこういうところにつまずくとか言われると、「あの問題集がいいよ」とよく参考書を勧めていたんです(笑) それがいまの仕事のちょっとした原点じゃないか、ということでエッセイに書きました。

 

生江いま選書している本と全くちがうところがルーツだったんですね。

 

内沼そうですね。去年(2017年)から「NUMABOOKS」として出版事業を始めて、同じ時期に子供が生まれたんですけど、自分の悪い癖で、子育てに使っている時間まで、つい仕事に生かしたくなってきてしまうんです。それで0歳児向けの絵本とかを色々見ている中で、「なぜこういう本がないんだろう?」と思うことがありまして。それでいま、絵本の企画を立てて、編集しています。このまま子どもが大きくなるに連れてその発見を生かして本をつくることを続けていけば、いつか受験参考書も作ることになるんじゃないかな。たぶん、15年後くらいに。

 

 

 

 

 

実態の見えない「本屋の仕組み」

 

 

 

 

生江今回、3冊目の著書として刊行された『これからの本屋読本』は、現在WEB上で無料公開もされていますが、内容は大きく3つのテーマについて書かれていますよね。

 

⑴本と本屋の魅力

⑵本を仕入れる方法

⑶小さな本屋を続けるための考え方

 

自分もずっと本屋で働いてきて、いわゆる「本屋の本」をたくさん読んできましたが、ここまで実用的で、かつ読み物としてもおもしろい本は初めてでした。

 

内沼本を売りたいと思ったときに、最初のハードルはそもそも仕入れ方がわからないということだと思うんです。ぼくとしては、本屋をはじめる人が増えて欲しいし、その人たちに無駄なところでつまづいてほしくない。そう考えて、最低限ここまでは知った上で始めたほうが早いと思える土台のようなものを、できるだけ具体的に書きました。

 

生江本屋さんで働いていても知らないようなことが、たくさん書いてありますよね。一般的な書店だと業務が組織のなかでシステマチックに分担されているので、本の仕入からお金の流れまで業界の仕組みを細部までわかっている人は多くないですからね。

 

内沼この本を書く前段階として、「これからの本屋講座」というのをこれまでに10期やっていて、そこに来る人の中にも、業界で働いている人はたくさんいます。実際に全部を知っている人は多くないです。特によく聞かれるのが、やっぱり流通の細かい部分です。本にするにあたって、みんながいちばん知りたい部分を明らかにしようと、「日本出版販売(日販)」と「トーハン」、という大手取次2社に取材しました。2社に公式に取材して具体的な数字を入れた本は、たぶん初めてじゃないかと思います。

 

生江ぼくはバリューに入社する前は取次にいたんですが、取次との口座開設の明確な基準みたいなものはなかったんですよね。各地域に営業担当者がいて、本屋さんをはじめられるかどうかはその人のさじ加減。

 

内沼まさにそうなんですよね。

 

生江本屋を始めようと思ったら、最初に「事業計画書」を出すようにいわれるんですけど、月の売り上げがどのくらいで、儲けはいくらになりそうか、そのあたりのことがカフェや雑貨業界に比べたら、本当に不鮮明です。

 

内沼運良く担当者に気に入られて店を持てた人がいれば、取次を三社ともあたっても店を持てなかった人もいる。だから、きちんと言語化して基準を作らなくてはいけないなと。すごく面倒で大変だったけど、少しは世の中の役に立ったかなと思います。「ここにこう書いてありますよ」と言ってもらえるわけだから。

 

生江内沼さんが本屋のはじめ方を丁寧に示す一方で、内沼さんと、「誠光社(京都)」の堀部さん、「ルヌガンガ(香川・高松)」の中村さんの3人のトーク(※1)では、「お金があれば事業としては成り立つけど、自分の生き方が反映されるような本屋じゃないとやっても意味がない」という風に堀部さんが話されていますよね。

(※1)『これからの本屋読本』229P~の259P 「これからの本屋講座」の卒業生、中村勇亮さんが香川県高松市にオープンした「本屋ルヌガンガ」の開店準備に際して行われた、京都、誠光社の堀部篤史さんと内沼さん、中村さんの鼎談。noteにて全文公開されている。https://note.mu/numa/n/n3bcb1e45283f 

 

内沼きっと京都は、本屋も学生も多いし、インディペンデントなマインドを持っている人も多いから、堀部さんとか、「ホホホ座」の山下賢二さんなどのところに、軽い気持ちで相談にくる若者が結構いるんだと思います。中村さんがきっちりとした事業計画書をつくっていることに、堀部さんも驚いたようでした。

 

生江事業計画書より人脈の方が大事だと。

 

内沼現在は、当時は開業準備中だった中村さんも無事本屋を開いて、すごくいいお店になっています。お客さんも集まっているし。堀部さんの店は堀部さんらしく、中村さんの店は中村さんらしい店になっている。彼のようにきっちり事業計画を立てて、真摯に積み上げて店を営むのもひとつのやり方だし、結果的に中村さんの生き方が現れているのだろうと思いました。

 

 

 

 

 

本になにを「掛け合わせる」か

 

 

生江実際新刊書店を経営するのがどれくらい大変なのか。具体的な数字から、飲食店の場合と比較してみました。

 

 

 

生江一人でお店を経営するとして、月に30万円ほどの収入を得たいとします。そうすると、飲食店の場合は85万円、本屋さんの場合は200万円の売上が必要になります。さらに、本屋の場合は在庫が必要。回転率(年)3の場合、月200万円の売上を出すには、だいたい仕入れ値で560万円、約8000冊の本の在庫がないといけない。飲食店よりも売上をとらなくてはいけない上に、在庫も必要。本は返品ができるといえ、最初にかかるお金や、月々の仕入で使うお金がかなりかかります。

内沼さんの本のなかで「掛け算」という考え方があって、純粋に本だけでお店を作ろうとすると、上記の数字が必要になるんですけど、たとえばカフェと掛け合わせることで、初期投資が少なくて済むし、損益分岐点売上も小さくなります。ここ最近の流行りだと、蔦屋書店みたいな「ライフスタイルの提案+カフェ」とか。

 

内沼いかに本、特に新品の本の利益率が低いかということですよね。インターネット以前、本が売れていた時代にはその利益率でもよかったですが、いま本屋でひとりの人間が生計を立てていこうとするなら、よほど恵まれた条件がない限り、本との「掛け算」はほぼ必須です。ですが一方で、単純にこれが流行りだからとか、逆にまだこういう業態はないから、という理由で、マーケットを見て掛け合わせる業種を考えてもうまくいかないと思うんですよね。あくまで個人の動機からスタートしている店が強いと感じます。たとえば、「本屋×猫」はあるけど「本屋×犬」はないからやってみます、みたいなことを、特に犬好きでもない人がやっても難しい。本屋さんをやるのは確かに大変です。でもなにかと掛け合わせてやるのは、もっと大変です。当たり前だけど、2つのことをやろうとするなら、2倍苦労すると考えたほうがいい。

 

 

 

 

 

生江書店員って、本を選ぶのは好きなんですけど、数字のことを考えたり、分析したりするのがすごく苦手なんですよね。書店員のセンスでセレクトされた本棚を作るのも必要ですけど、売上を上げたいなら、お客さんがどういう本を求めて、どういう提案をしたら喜んでもらえるか、地道に計測していくことが大切。

NABOは長野の本屋なので、山登りとかアウトドアのついでに立ち寄ってくださるお客さんが多いので、自然や山、冒険、旅などのジャンルを強化しました。それと、売上のベースを上げるために計算した上で、本棚を10本ほど追加して本の在庫量を増やしました。

 

内沼在庫は多いほど売上に結びつきますからね。

 

生江雑貨屋でもそうですが、選択肢が広がると買ってもらえる率も高くなる。セレクトしすぎて少ない本棚で勝負するのは難しいですね。

 

内沼最近は雑誌の本屋さん特集でも「セレクトがいい」というところばかり、前に出過ぎてしまっている。この間、『東京人』という雑誌のアンケートで、好きな本屋について書く欄があって、ぼくはそこに「くまざわ書店 調布店」って書いたんです。

 

生江それ、意外でした。

 

内沼せっかく本屋の特集なのに、業界の売上の大半を占めるようなチェーン店を褒める人がいないと、そこで働く人も報われないじゃないですか。「くまざわ書店」はシステマチックに感じる部分も強いですが、その分いま置いていてほしい本が、売り場の小さな店や地方の店にもひと通り揃っている。調布店は比較的新しいお店で、最近自分が近くに引っ越したこともあるんですけど、「あそこにならあるはず」と安心できる品揃えで、フロアも明るくて隣に子どもを遊ばせられるスペースもあって、近所の本屋としてすごくいいんですよ。

 

 

“バリューブックスは、ぼくにとってのフロンティア”

 

 

生江そもそもこの「NABO」が生まれた経緯としては、ネットでのみ本を販売していたバリューブックスが、リアルな店舗を通して新たな接点を作りたいという目的があったからです。しかもバリューブックスには、200万冊以上の在庫があるので、新しく本屋さんを始めたい人のお手伝いができるかもしれない、という想いもあります。

 

内沼このお店があることで、地元・上田の人たちとのコミュニケーションが生まれる。それと同時に、古本の卸をしていくための実験でもあるんですよね。

 

生江そうですね。理想としては、NABOで働くスタッフが独立して、バリューブックスの在庫を使って、本屋さんを始めるという人が増えていけばいいなと思っています。いまだと、同じ上田市内にある「コトバヤ」(※2)の高橋さんがバリューブックスから独立したひとりです。

(※2)「コトバヤ」
https://www.facebook.com/kotobaya.net

 

生江内沼さんがバリューブックスに参加するようになったのも、NABOがオープンした頃だったんですよね。

 

内沼そうですね。ぼくの「これからの本屋講座」の第2期に、社長の中村(大樹)さんが来てくれたのがきっかけです。ぼくもAmazonで古本をよく買うので、当然バリューブックスの名前も知っていました。その社長がきたからびっくり。

バリューブックスという会社は、本でNPOや大学などに寄付ができる「チャリボン」や、廃棄する本を活かした「ブックギフトプロジェクト」など、魅力的な活動をしているだけど、それを本好きの人に知ってもらい、共感してもらうための情報発信には、まだできそうなことがたくさんあった。せどり(※3)からスタートして大きくなった会社ということもあって、同業者以外のつながりもうすい。

今後さらに新しい取り組みをしていくにあたり、出版社や取次、新刊書店、著者、印刷屋、デザイナーなど、出版業界全般との接点を持ちたいというところで、声をかけてもらって、社外取締役として参加することになりました。そこから出版社に売上の一部を還元する「バリューブックス・エコシステム」や、無書店地域を中心に本を届ける「ブックバス」など、新たなプロジェクトが少しずつ立ち上がってきています。

(※3)せどり・・・物を安く売って高く売り、その利ざやで儲ける商売のこと

 

 

生江今でこそ、本の仕事をしてきたスタッフが増えてきましたが、もともとバリューブックスは、いわゆる「本好き」の集まりではなかったんですよね。それは別に悪いことではなくて、むしろ本を商材として扱うことで、ビジネスとして成功してきたんだから、魅力のひとつでもあった。ただ、そこから事業を多方面に展開していくという段階になって、内沼さんは不可欠な存在だった。

 

内沼そういうところで、社長はやっぱり勘がいいというか、先を見通すセンスがあるんですよね。あの時、バリューブックスが数多あるネット古書店のなかで違う存在になっていくために、ピースとしてぼくがハマったんだと思います。

 

 

内沼バリューブックスは、当時のぼくにとって目の前にあらわれた広大なフロンティアでした。こんなにたくさんの本があって、いろんな可能性がある。本好きな人だったらどう見るか、出版社の人だったら、書店員からしたらどうか。いまもそういうことをいちいち考えるのが楽しいし、責任も感じています。

この2~3年でみんなが力を合わせたことで、本好きの人たちにも「バリューブックスはちょっと違う会社だぞ」というところを知られはじめてきたのではないでしょうか。気がついたらいつのまにか、バリューブックスが本の世界のすごく重要なポジションにいた、ということは十分あり得ると思います。

 

 

 

小さな規模だからこそ生まれる、新たなアイディア

 

 

内沼ニュースを見ていると「本が売れなくなっている一方で、小さな本屋が元気」みたいな話は、世界共通の話題のように感じられますが、実際は国によって状況が違います。たとえばAmazonのお膝元であるアメリカでは、日本の出版業界ほどの危機は訪れていない感じなんですよね。まず書店の利益率が違って、4割とか5割とかあります。もちろん再販制がないから自由価格ですが、ローカルのコミュニティの中で愛されるインディペンデントな書店は、価格競争にそれほどさらされず、値引きをしなくても濃いつながりの中で生き延びられる。そもそも英語は言語人口も多く、世界中で需要があるので、出版社もいろんな可能性を模索できる。

それに比べて、日本や韓国、台湾といったアジアの国って、“出版の課題先進国”なんじゃないかと思っているんですよ。自国の言語で本を読む人が一定数いて、出版業界が成り立っている国。全体の売上が落ちてくると、そういう国のほうが先に厳しくなるはずです。だからこそ、そんな中で生き延びていくための、小さいけれど新しいアイデアが模索されている。いま東アジアのインディペンデントな書店や出版社がやっていることは、いつかアメリカやヨーロッパの人たちの役にも立つんじゃないかと思っています。

そう考えるようになったのは、綾女欣伸さんとつくっている共著のシリーズ『本の未来を探す旅 ソウル』『本の未来を探す旅 台北』(ともに朝日出版社)がきっかけです。もちろん流通の事情だけでなく、国民性みたいなものもあります。たとえば、ソウルって日本の人よりずっとカジュアルにお店をオープンするんですよね。明日なに食べようかな、くらい気軽な感覚で、次は何をやろうかな、そうだお店をやろう、みたいな。

もちろん物件を借りなきゃいけないし、お金も必要なんだけど、それこそ事業計画書なんて書かない。仕入れの方法がわからなければ、まず家にある本を売るところからはじめる。ウェブサービスのようにβ版としてローンチして、トライアンドエラーで経営していく。結果、どんどんオープンしては、どんどん潰れていく。そのスピード感は、もちろんいいことばかりじゃないですけど、リスクを徹底的に潰してからでないとはじめられない人たちを日本で見ていると、そういうフットワークの軽さも大切だなと思います。

 

 

生江日本は世界の中でも特殊な出版事情がありますよね。

 

内沼とくに新品の本の流通に関しては、かなり巨大でシステマチックな仕組みが維持されています。新しい本が出たら、取次と呼ばれる巨大な卸会社を通して、日本全国津々浦々の書店に、搬入日の数日後には本が配本という形でばらまかれる。納品と返品の差額が請求される。こういう風に新品の本の流通をやっている国はぼくの知る限り、今はないはずです。

韓国にも現在は図書定価制という法律があるのですが、国をあげてITに力をいれてきたので、ネット書店だけが優遇されていた時代もありました。つまり、リアル書店は値引きしてはいけないけど、ネット書店ならいい。そうすると当然、日本とは比べものにならないスピードで、町の本屋がどんどん潰れていったんですよね。けれどそのおかげで、国内のネット書店が発達して、Amazonなどの外資に参入する隙を与えなかった。何が言いたいかというと、国によって新刊や古本をめぐる状況はまったくちがうということ。

みなさんご存知の通り、日本で一番大きな書店は外資のAmazonですが、これも世界的には当たり前のことではありません。韓国では、「yes24」「interpark」「aladin」「教保文庫」の4社が争っています。台湾だと「博客来(ポーカーライ)」が飛び抜けています。ぼくたちは慣れてしまっていますが、Amazonってやっぱりアメリカの会社だし、日本人から見ると特に人がやっている匂いがしないというか、良くも悪くも無味乾燥じゃないですか。

 

生江ただのプラットフォームですからね。

 

内沼Amazonで働いている人の顔も見えてこなければ、それを感じさせるようなおもしろい企画もあまりないですよね。けれど韓国とか台湾だと、ネット書店も本が好きな人に向けたいろんなコンテンツやサービス、キャンペーンなどを考えてつくって、それを通じて本好きに愛されている。ネット書店だから無味乾燥なプラットフォームがよい、ということでは必ずしもないんですよね。日本でも異業種には「ほぼ日」や「北欧、暮らしの道具店」などの例があり、それを見れば一目瞭然ですが。

たとえば「aladin」は、本の値引きができない代わりに、おまけのグッズを作るんです。そのクオリティが高い。最初はノートやシール、バッグとかだったのが、次第に有名作家に依頼してそこでしか読めない小説集をつくったり、出版社から情報を集めて「来年出る本」のリストをつくったりして、それを印刷しておまけにする。50000ウォン、日本円でだいたい5000円分の本を買うともらえるという仕組みです。お客さんもそれが欲しい、読みたいという理由で5000円分まとめて買う。すっかり本好きの心を捉えているんですよ。日本でAmazonがそれをやるのは全く考えられないですよね。

 

 

 

毎月30万人に届くメディア「納品書のウラ書き」

 

 

生江グッズまではいきませんが、バリューブックス では、Amazonや楽天経由で本を買うと、「納品書のウラ書き」という書評がついてきます。ほかにも、「ぼくたちが本を届けながら考えていること」というタイトルのお手紙も同封しています。中身はバリューブックスの活動紹介だったり、働くスタッフのインタビューだったり、2ヶ月に1度、内容を変えながら。バリューブックスから発送する本って、1日1万件くらいあるんです。つまり、1ヶ月で30万人に届くメディアともいえます。

 

内沼いま10万部超えている雑誌ってかなり少ないですからね。みんながよく知っている雑誌でも月に数万部、1~2万部とかしか出ていないものもザラにある。そういう風に考えた時、バリューブックスの発送物ってかなり影響力がありますよね。そこそこ有名な週刊誌や月刊誌に書評を書いても、30万人には届かないわけですから。

 

 

 

 

内沼台湾のネット書店「博客来」は、「OKAPI」という独立したウェブメディアを運営しています。作家のインタビューが掲載されるサイトといえば「OKAPI」というくらい、一定の地位を築いている。それでいて、たとえこのサイトを見て近くのリアル書店で本を買う人がいたとしても、むしろ本の世界を盛り上げるため、リアル店舗に還元したい、ほかの本屋たちとも仲良くしていきたい、というスタンスなんです。Amazonと日本のリアル書店との関係性とは、全く違いますよね。

 

生江実際、日本でもAmazonは便利だけど、苦手だという人も多いですよね。

 

内沼ジェフ・ベゾス(Amazonの創業者)は、本を売りたかったわけではなくて、インターネットでモノが売りたかったんです。そのために、商品のカタログが整備されているジャンルとして思いついたのが本だった。そういう意味で、Amazonは「本屋」になろうという会社ではないんですよ。日本でもほかの東アジアの例のように、本が好きな人に寄り添った国内サイトが出てくれば、Amazonよりも支持されるインターネット書店が生まれる可能性は大いにあります。それはもしかしたら、未来のバリューブックスかもしれないですね。

 

 

 

 

撮影:篠原幸宏

 

posted by 北村 有沙

石川県生まれ。大学卒業後、ライフスタイル誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、あれよあれよと上田市へ移住。映画とサウナ、ビールなどが好き。

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