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2018-12-14

社員全員の拍手が出版の合図。「未来の読者」へ向けた本作り── 英治出版インタビュー【前編】

古本の買取を行う私たちの倉庫には、毎日約2万冊の本が全国から届きます。しかし、そのうちの半分にあたる約1万冊を、インターネットの市場では価値がつかず、古紙回収にまわしている、という現状があります。そんな中、発売から月日が経っていても価値が下がりにくい本を手がける、いくつかの出版社の存在に気がつきました。よくよく調べると、それらの出版社の本は90%以上という高確率で、値段を付けて買い取ることができています。彼らのものづくりを支えることで、よりよい本の循環が生まれるのでは。そう考えた私たちは、2017年、それらの本を売って得た売上の一部を出版社に還元する「エコシステム」プロジェクトをスタートしました。

 

○「エコシステム」について、詳しくはこちらをご覧ください。

 

現在、バリューブックスでは4つの出版社と提携しています。彼らはなぜ、消費することなく、読み継がれる本を作り続けることができるのでしょうか。どんな思いで本を作り、読者へ届けられているのでしょうか。数字からだけでは見えてこない、本作りへのこだわりを聞いてみたい。そんな思いから、古本屋・バリューブックスが考える「いい出版社」を巡る、連載企画がはじまります。

 

記念すべき第一回目は、話題のビジネス書や社会書を次々と出版する英治出版へ。本を作るスタッフは、編集者ではなく「プロデューサー」と呼ばれ、編集作業だけでなく、営業やイベントの企画まで手がけます。出版不況といわれる時代に、ぐんぐん成長を続ける出版社です。

 

今回は、代表の原田英治さんと共に、ヒット作『ティール組織』の解説者である嘉村賢州さんを迎え、『ティール組織』に影響を受けた読者のひとりでもあるバリューブックス代表・中村大樹が、気になる話題を聞いてみました。ファシリテーターは、ブックコーディネーターでバリューブックスの社外取締役でもある内沼晋太郎が務めます。

 


PROFILE

 

原田英治(はらだえいじ)

1966年、埼玉県生まれ。英治出版代表取締役。外資系コンサルティング会社を退職後、家業である印刷会社での勤務を経て、現在の英治出版株式会社の前身となる有限会社原田英治事務所を設立。妻と二人、埼玉の自宅を事務所とし事業をスタート。創業時から「誰かの夢を応援すると、自分の夢が前進する」をモットーに、応援ビジネスとして出版業をおこなっている。現在は、「親子島留学」を利用し、東京と島根県隠岐郡海士町の二拠点生活を送っている。

 

 

嘉村賢州(かむらけんしゅう)

1981年兵庫生まれ。京都大学農学部卒業。IT企業の営業経験後、NPO法人「 場とつながりラボ home’s vi」を立ち上げる。2015年に一年間、仕事を休み世界を旅する。その中で新しい組織論の概念「ティール組織」と出会い、日本で組織や社会の進化をテーマに実践型の学びのコミュニティ「オグラボ」を設立。『ティール組織(英治出版)』解説者。

 


 

出版業をやりたくて

出版社を作ったわけじゃない

 

──「エコシステム」プロジェクトを通して、パートナーの本をできるだけ高値でお客様から買い取り、本が売れた場合は売り上げの33%を還元させていただいているわけですが、その支援金を実際どのように使っていただいているのか。また使い道の話だけではなく、英治出版という会社について、まずはお話を伺いしたいです。

 

中村:そもそもどういう経緯で出版社を立ち上げたんですか?

 

原田:会社を立ち上げる前に4年間、家業の印刷会社で働いていたんです。そこの出版事業で、翻訳権を獲得し、出版を計画していたビジネス書がいくつか残っていて。このままだと著者や訳者に迷惑がかかるから、会社をやめるときに自分で版権を買い取ったんです。今後何をやるか決まらないので社名は有限会社原田英治事務所、とりあえず通称「英治出版」として自宅で妻と二人きりでスタートしたんです。

 

「世の中の本がこんなにも絶版になるのはおかしい」という思いがありました。起業した頃に、日本にオンライン書店の出店が始まり、amazonは翌年営業を開始したんですが、当時登録されているタイトルの書籍の大半が買えないんです。当時のamazonは新刊の取り扱いしかないから、70~80%のタイトルの本はカタログが登録されているのにも関わらず、絶版になっているので購入することができなかった。

 

「再販制度」(全国どの書店でも定価で本を購入することができる制度)が認められているということは、出版は「文化産業」なわけですよ。文化なのに絶版にするっていうのは、理屈が合わないと思って。著者にも申し訳ないし。だから「絶版にしない出版社」を作ろうと。絶版にしない技術的証明として、99年創業最初の書籍では、オンライン立ち読みで全文を公開しました。オンデマンド印刷でサイズを選べる本にしたり。日本の出版社じゃ初めてじゃないかな。

 

 

 

著者が活躍し続ける限り、

未来にも読者がいる

 

中村:買取率の高い本ばかりを出版している会社の人と話していると、共通して「絶版にしない」「長く読まれるような本を作りたいんだ」ということを言ってて。それって、ある意味縛りにもなるじゃないですか。短期的にバーンと売れる本が作れなくなるとか。

 

原田:「絶版にしない」ということは、ぼくらが創業時に大手出版社へのアンチテーゼとして言ってきたところはあるんですけど、なにより最優先するのは著者を応援すること。去年の2月に終わった決算期までで、300タイトル以上出版して、94.7%の本が、継続して販売されている。5.3%の本だけが、著者の倒産や版権の都合などを理由に販売できていない状態です。

 

絶版にしないという姿勢で結果的によかったのは、「現在のマーケットだけじゃなくて、未来にも読者がいるよね」「だったら著者も長く活躍する人がいいよね」と、方針に共感する編集者たちが集まるようになったこと。その著者にとっての、名刺代わりの1冊となるようなものを作れたら、その人が活動する限りその本がずっと売れ続ける。

 

だからうちでは、流行っているテーマで本を作るとか、売れている著者のところに企画を持っていくとか、そういうのは一切ないんですよ。最近でいえば(嘉村)賢州さんもね、彼が活動する以上、きっと『ティール組織』は今後も売れ続けるだろう、と思っています。

 

 

 

社員全員の拍手が

出版へのGOサイン

 

中村:本はあくまで著者を応援するツールなんですね。僕は英治出版の本で最初に読んだのが、駒崎弘樹さんの『「社会を変える」お金の使い方』だったんですけど、そういった本は、どのようにして出版まで行き着くのでしょうか?

 

原田:最後のシーンだけいうと、毎週水曜日の企画会議で全員の拍手が起こるときに成立します。

 

中村:全員とは、プロデューサー(編集者)のことですか?

 

原田:いえ、全社員です。

 

中村:編集とかにも関わらないスタッフさんもいるんですよね?

 

原田:ええ、バックオフィス的な経理・総務もそうだし、営業もそう。タイトル会議とかも全員でやってますね。僕は今、島根県の海士町と二拠点生活しているので、東京にいない時はロボットの「OriHime」を活用しています。拍手機能がついているのが良いんですよ。

○原田英治「離島から会社を経営する」
https://note.mu/eijiharada/m/mb6c47754a9ca/rss/rss

 

中村:あのロボット使っているんですね!

 

原田:関西に営業社員がひとりいて、その人もOriHimeで会議に出るんです。そうしたら本当にみんなで拍手ができる。

 

── でもそういうやり方だと、企画はなかなか決まらないものでしょうか?

 

原田:うーん、うちって企画をボツにするという考え方があんまりないんですよ。プロデューサーが企画して、出したいという意思や情熱とか確認しながら、出版することを前提に全員でフィードバックをしていくんです。そのフィードバックを受けて再度提出するのは全然OK。3~4週出し続けていくと企画も洗練されていって、だんだん共感する人も増えて、最終的に拍手が起こる。

 

 

中村:社員全員で企画を考えるっていうのは、はティール組織っぽいんですかね?それともグリーン組織っぽい?

※ティール組織は、生命体に例えられ、社長や上司のマネジメントがなく、全員が信頼に基づき、独自のルールや仕組みを工夫しながら、目的実現のため組織運営を行うというスタイル。グリーン組織は、家族に例えられ社長や従業員等のヒエラルキーを残すものの、主体性が発揮され、個人個人の多様性が尊重されるような組織を目指す運営スタイル。

 

嘉村全員でというとグリーンっぽくはありますが、実質は基本的にすべての人の提案に対して却下したいという気持ちはなく、その人の意見を前進させようと応援しようとしていること、まずはやってみようという文化がある点はすごくティールっぽいですね。

 

 

 

本を広めたい

思いを持ったパートナーを見つける

 

── 『ティール組織』が出版されるまでは、どういう流れでしたか?

 

原田:それは、鈴木立哉さんという翻訳家が違う出版社で企画として紹介されたのがきっかけでした。彼はすごくいい本だと思ったらしいんだけど、結局その出版社の編集方針が変わりボツに。それで他社に問い合わせてもいいかと尋ねたところ、そこの編集者さんが「だったら英治出版がいいんじゃないか」って言ってくれたみたいなんです。それで鈴木さんからメールをいただいたことから、話が進んでいきました。

 

 

 

中村: 英治出版の編集者の人が海外のフェアとかにいって買い付けてくるってこともあるんですか?

 

原田:もちろん。ブックフェアは、フランクフルトとロンドンは誰かが必ず参加していますね。

 

中村: それから訳者を見つけるパターンもあるんですか?

 

原田:ブックフェアで翻訳者を見つけることはありませんが、国内の翻訳者に依頼することはあります。最近は、その本の内容を日本で広めたいと思っているパートナーを見つける方がよいと考えています。海外の著者自身は応援しづらいけど、それを日本で紹介したいと活動を行う人は応援しやすいから。

 

── じゃあただの訳者っていうよりは、そういった活動を行なっている人がパートナーになりやすいと。

 

原田:そうですね。もちろん翻訳自体はプロの翻訳家に依頼することもあるんだけど、それとは別に監訳みたいな形でお願いする人も。『ティール組織』は解説者として賢州さんにパートナーになってもらっています。

 

── 嘉村さんとの出会いはどういうものだったんですか?

 

原田:「コクリ!キャンプ」というイベントで知り合ったのがきっかけです。その説明は賢州さんの方からお願いします。

 

嘉村コクリ!プロジェクトは「リクルートじゃらんリサーチセンター」の研究員の三田愛が立ち上げた取り組みです。彼女はもともとコーチングや組織開発の手法などを活用して地域の中での多様なステークホルダーが集まって地域の未来を考えたりアクションを起こす場をサポートしていました。その活動が地域を越えて広がり、今は全国各地の多様な人が集まり社会や地域の未来を探求する集まりに発展してきているのです。その過程で英治さんも参加されるようになって、僕もそこで進行役を務めていた関係でつながったという形です。

 

 

── 出会った時には『ティール組織』の翻訳の話がすでにあった?

 

嘉村そうですね。2年半前に鈴木さんが英治出版に持ち込んで翻訳本を出すことは決まっていました。当時はそのことを僕もしらず別のところでティール組織の概念を知って、海外で誰か詳しい人がいないか探していたんです。調べていくとティール組織の原著「reinventing organization」は自費出版だったんです。

 

著者のフレデリック・ラルーさんは今の経済社会自体に違和感を持っていて、販売の方法も新しいチャレンジをしていました。「本を読みたい人は好きな金額を払ってください」というギフトエコノミーのスタンスをとっていていたのです。本の内容だけでなくそのようなスタンスにも非常に共感をして、これはどこの出版社から出るかによって、ラルーさんの思いが同じように広がるのか、あるいわいわゆる利権争いの世界になる可能性もあるなと思って少し危惧を持っていたのです。

 

それでラルーさんに思い切ってメールを出したら、英治出版で出版が決まっているということを聞いて、すぐに英治さんにメールを送った。「こういう件でティールに興味があるんで一回お話させてください」と。

 

原田:うちとしてはまさに渡りに船じゃないですけど。

 

嘉村タイミング的いい時期でしたね。

 

 

▷続く後編では、独特の採用方法や、社員を幸せにする会社作りについて、お話を伺いました。また、エコシステムから還元された支援金がどのようにして著者への応援に結びついているのか、新しい読書法と共にご紹介します。

【後編】タイトル数を減らしたら売り上げがあがった。小さくても世界一いい会社を目指して。

 

 

撮影:門脇遼太朗

posted by 北村 有沙

石川県生まれ。上京後、出版社にてライフスタイル誌の編集者として働く。取材をきっかけにバリューブックスに興味を持ち、上田市への移住を決める。趣味は温泉とビール。

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